月とオレンジ 5

207 不倫 ページ14

藤「……ごめん。





こんな話、聞きたくなかったでしょ。








とにかくさ

今日は遅いから

もう今から帰るとか言わないで。






ベッドが嫌なら

向こうのソファで寝てもらっていいからさ。」









そう言うと、目を合わせない先輩が

立ち上がって部屋を出ようとするから

今度は私がその腕をとった







藤「……。」







なんて言えばいいのか分からない







でも、なんか先輩が消えちゃいそうだったから







先輩の腕を引っ張って屈ませると

ちょっとだけ背伸びをして

さっき先輩が私にしてくれたように

そっと頭を撫でた








藤「……なんで……引かないの？




俺、最低なことしてんだよ？」







心なしか声は震えて、不安でいっぱいって顔








フワフワの髪の毛に

まるで捨てられた子犬みたいだって








だから……









「……なんて言ったらいいか……分かりません。






でも……私、今、先輩に優しくしたい。」








不倫は正直、最低な行為だと思っていた







それは、みっくんのお母さんが

離婚したきっかけになったのが

お父さんの不倫だったから









両親が離婚したとき

みっくんはまだ小学６年生だった







いつもはキャーキャー元気だったみっくん







なのにこんな時に限って

いたって冷静に事実を受け止めていた







おじさんが家を出ていき

みっくんはおばさんにつくことが決まり

別居が始まった








離婚後しばらくしてから

何を言うこともなかった







みっくんがひとこと







『不倫とか……するぐらいなら

結婚なんてすんじゃねーよ。






子供なんてつくってんじゃねーよ。』







って漏らしたのを覚えている








その言葉に子供ながらに

すごく辛い想いをしたんだと思った







離婚に巻き込まれたみっくんも

おじさんに裏切られたおばさんも








だから、それを間近で見ていた私は

不倫なんて人間として間違ってる









最低だ






ずっとそう思ってきた








……はずなのに







すごく傷ついている藤ヶ谷先輩を前にして

思っていたような

攻撃的な言葉は出てこなかった








多分私は、このとき初めて気づいたんだと思う








不倫している人が皆

最低ではないかもしれないことに







不倫はいけない









でも、もしも私が藤ヶ谷先輩の

立ち場だったとしたら

一線を踏み越えずにいられただろうか

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