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「桂さんのせいで!また…っまた!世界が色づいてしまいそうなの!」
突拍子もなく発された言葉に驚きを隠せない。
思わず抱きしめる腕がぴくりと動いた。
「私には彼がいるのに、こんなの浮気だわ!彼は突然人生を奪われて、もう笑うことも泣くことも、起こることも悲しむことも、心奪われることだってないのに…!私だけこんなの…。」
しばらく彼女は泣き続けた。
俺への恨み言、生き辛さ、心の内の毒を全て吐き出しているんじゃないかと思うほどに、叫びが止まらない。
落ち着いた頃を見計らい、話し始める。
「すまない、そこまで追い詰められてるとは思わなかったんだ。旦那殿がまさか亡くなっていたとは。俺は無神経な発言も多かっただろう。」
「桂さんは別に悪くないです!私は貴方に感謝してるのに…!そんなこと謝らないでください!」
もはや逆ギレだ。
全て話してスッキリしたのか、俺が落ち着いて話すのに同調したのか、背中をトントンと一定のリズムで叩いたのが効いたのか、少し落ち着いてきたらしい。
「よく一人で耐えてきた。…これからは、俺にも背負わせてくれまいか。」
「え…。」
「友として、力になりたい。抱いてやることはできないが、一緒にいることはできる。添い寝くらいなら付き合おう。眠れないなら眠くなるまで一緒にUNOでも散歩でもすればいい。寒くなったらいくらでも抱きしめよう。」
「…桂さんは、とっても優しいけど、とてもひどい人ですね。」
「…すまんな。」
俺はAの恋人にも、ましてや旦那にもなれない。
それが伝わったんだろう。
当たり前だ、俺は追われる身なのだから。
Aを巻き込んでしまう。
「ううん、ありがとう桂さん。…今までごめんなさい。」
瞼を思い切り腫らしたAは、俺の腕を抜けてからりと笑った。
その顔に曇りは一切なく、足取りもしっかりしていた。
影は今までにない程濃く色づいていて、彼女は一人で立つことができるようになったようだった。
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作者名:たいる | 作成日時:2022年1月25日 15時