2.初めてデートをした日 ページ4
翌日、いつもの場所に彼女はいた。
「こんにちは、お嬢さん。お隣いいか?」
「昨日の…!本当に来てくれたんですね。お隣どうぞ。」
柔らかく笑った彼女の瞳は、やはり空っぽだった。
「私ここで毎日空を見上げるのが習慣なんです。」
知っている…とは言えなかった。
「そうか。」と無難に返し、彼女を傷つけないよう慎重に言葉を紡ぐ。
「空が好きなのか?」
「好き、なんでしょうか。わかりません。でも見ていると落ち着くんです。たまに吸い込まれそうになりませんか?本当に吸い込まれることはないんですけどね。…吸い込んでくれないかなって。」
そう言ってクスリと笑った彼女を見て、少しだけわかった気がした。
冗談めかして言ったつもりのようだが、冗談には聞こえない。
おそらく彼女は逃げたいのだ。
この世界から、この現実から。
「…俺と共に街を歩かないか?」
旦那と上手くいっていないんだろうか。
それとも不遇でも受けているんだろうか。
それとも他の悩み事があるのか。
彼女のことは全く知らない。
事情も、本当の気持ちも。
しかしこんなにも幸薄そうな彼女を放っておけない。
放っておけるはずもない。
とにかく消えてしまいそうで、空へと旅立ってしまいそうで。
灰色の影を黒色に戻してやりたい。
そんな気持ちから、強引に街へと誘った。
「甘味は好きか?」
「?ええ。」
「美味しい団子屋を知っている。付き合ってくれ。」
「…わかりました。」
彼女は少し後ろを着いてきた。
今では珍しい、控えめな女性だ。
もしくは並んで歩くと、嫁入りの身ではまずいのか。
悪いことをしただろうかと思い、チラリと彼女の顔を見やれば、特に困った顔も申し訳なさそうな顔もしていなかった。
孵ったばかりのアヒルの子のように、後ろをぴったりと着いてくる。
俺のことを信用しすぎじゃないかと心配になったが、正直悪くない気分だ。
前方に黒服が見え、そんな彼女を巻き込まぬよう、編笠を深く被った。
真選組は俺たちを素通りして行った。
「おばちゃん、みたらし4本。」
「はいよ。あら、女の子連れてるなんて珍しいね、コレかい?」
目的地の暖簾をくぐり、団子を頼む。
見せつけるように小指を立てたおばちゃんの顔は完全に面白がっている。
「よせ、彼女はそういうんじゃない。」
「あら本当、よく見たら指輪してるじゃない。ダメよ、人妻に手出しちゃ。」
「だから違うと言っているだろう。」
「はいはい。」
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作者名:たいる | 作成日時:2022年1月25日 15時