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「桂さんのせいで!また…っまた!世界が色づいてしまいそうなの!」
何にも希望が持てない、モノクロの世界が色づく。
夜明けが近づいてくる。
私の、彼の死とともになくなった幸せな未来を、桂さんが取り戻してしまいそうで。
それが、彼の存在を否定するようで怖い。
「私には彼がいるのに、こんなの浮気だわ!彼は突然人生を奪われて、もう笑うことも泣くことも、起こることも悲しむことも、心奪われることだってないのに…!私だけこんなの…。」
彼がいなくても回るこの世界が憎い。
彼がいなくても人生が続くことが怖い。
涙がとめどなく流れた。
子供のように泣きじゃくる私を、桂さんは優しく慰めてくれる。
「すまない、そこまで追い詰められてるとは思わなかったんだ。旦那殿がまさか亡くなっていたとは。俺は無神経な発言も多かっただろう。」
「桂さんは別に悪くないです!私は貴方に感謝してるのに…!そんなこと謝らないでください!」
もはや逆ギレなのはわかっている。
涙が流れ切ったのがわかった。
桂さんが落ち着いて話すから、つられて少しずつ落ち着きを取り戻す。
全て話してスッキリした。
背中をトントンと一定のリズムで叩いてくれたのも嬉しかった。
「よく一人で耐えてきた。…これからは、俺にも背負わせてくれまいか。」
「え…。」
「友として、力になりたい。」
少し膨らんだ期待が萎んだ。
「抱いてやることはできないが、一緒にいることはできる。添い寝くらいなら付き合おう。眠れないなら眠くなるまで一緒にUNOでも散歩でもすればいい。寒くなったらいくらでも抱きしめよう。」
「…桂さんは、とっても優しいけど、とてもひどい人ですね。」
「…すまんな。」
こんなにも殺し文句なのに、桂さんは私を友としてなどとわざわざ括った。
私の恋人にも、ましてや旦那にもなれない、そういう線引きだ。
「ううん、ありがとう桂さん。…今までごめんなさい。」
するりと桂さんの腕の中から抜け、瞼が思い切り腫れているのがわかるほどに重たい瞼を、思い切り細めて笑ってみせた。
もう大丈夫だと伝えるように。
今後桂さんには会えないのかもしれない。
それでも、心はとても晴れやかで、雨は止んだらしい。
初めて、他人に話した。
「私の旦那さん、交通事故だったんです。」
ずっと心の内に秘めていた、私の本音。
旦那の話を客観的に話すのも初めてだった。
桂さん、私の心を救ってくれて。
「ありがとう。」
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作者名:たいる | 作成日時:2022年1月25日 15時