▽ ページ23
桂さんが河原に来なくなって、もう__。
忙しいのか。
それとも私が何かしてしまったんだろうか。
何でもするから、そばにいてほしいなんて、酷く歪な願いだ。
旦那の面影を探していた空はもう、ほとんどなくなってしまった。
代わりに私の単純な脳みそは桂さんで埋め尽くされていて、馬鹿な自分を呪い殺したくなった。
旦那に悪くて、罪悪感ばかりが心を覆い尽くす。
それでも細胞の一つ一つは、一人は嫌だと叫ぶ。
この矛盾が私を苦しめ続ける。
まだ昼過ぎの明るい空は、やはり濁った青空だった。
空虚がさらに空虚になった。
桂さんと出会うまでは喪失感ばかりだった私の心を、簡単に埋めてくれた桂さんまでが私を見捨てたら。
私は本当に、__。
陽が落ちる茜色の空も、今日はさほど美しくない。
・
また街を彷徨う。
もしかしたら桂さんがいるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら。
そうしていたら、奇跡が起こった。
「__桂さん?」
「悠殿ではないか、久しいな。」
顔が見れて、声が聞けて、名前を呼んでもらえて。
これ以上なく舞い上がった。
馬鹿みたいだ。
「お久しぶりです。お忙しそうですね。」
「まあな。悠殿はお変わりないか。」
「ええ、まあ。」
さりげなく会えなかった原因を探りつつ…いや、もうそんなことはどうでもいい。
どうやったら繋ぎ止められるか思考を巡らせた。
「…今度がなかなかこないから、少し寂しいです。」
結局優しさにつけ込むしか思いつけなかった。
「……そうか。近々また行くとしよう。」
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ。」
約束を破らない男だということは、もう知っていた。
・
毎日は来てくれなかった。
決まって二、三日おき。
私の歪んだ心が見えてしまったのかもしれない。
だから桂さんは毎日来てくれない。
いや違う。
そもそも桂さんは、私によって優しさにつけこまれただけで、私に会いたくて来ているわけじゃない。
私が悲しい顔で寂しいなんて言うから、縛り付けられているだけだ。
気づかないふりして、世間話に興じた。
たまに連れて行ってくれる蕎麦処や甘味処はどこも美味しくて、一緒に食べるとさらに美味しく感じた。
これが、これこそが幸せなのかもしれないと、恥ずかしげもなく思った。
___本当は。
私すらも気づかない間に、私の心はボロボロだった。
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作者名:たいる | 作成日時:2022年1月25日 15時