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「あら、女の子連れてるなんて珍しいね、コレかい?」
団子屋の店主が立てた小指に、絶句した。
私は何をしているんだろうと我にかえった。
あの人はもう、食べることも、誰かと笑い合うこともない。
なのに私はたったの1ヶ月という短い期間で新しい男の人と。
目の前の男性とそういう関係でないことは間違いないが、もしあの人が見ていたらどう思うだろうか。
想像しただけで血の気が引いていった。
二人の話も耳に入ってこない。
「すまない、おばちゃんは俺をからかっていただけだ。気を悪くしないでくれ。もちろん俺にそんな気などないし、旦那殿に何か言われれば俺が弁明をしよう。」
私の様子に気が付いたらしい。
純粋に私のための謝罪だった。
恥ずかしくて、消えたくなった。
「…すみません、取り乱して。私たちそういう風に見えるんだと思ったら…つい。」
「いや、こちらこそ申し訳ない。貴殿の都合を考えてはいなかった。旦那殿はこのようなことを気にするタイプであったか?それならばすぐに店を出るが。」
「…いいえ、問題ありません。彼は何も言ってきませんから。」
「…そうか。」
もういないから大丈夫と言うのはなんとなく憚られた。
あの人はもう何も言わないし思わない。
知っているのに、あの人視線がちらつくのはきっと罪悪感からだ。
だからと言って目の前の優しい人を傷つけるのも違うのに。
彼は今私のことだけを考えて気遣ってくれたのに、私は自分のことばかり。
「ここのみたらしは絶品でな。」
タイミング良く運ばれてきたみたらし団子を、勧められるがままに口に入れた。
「確かに、美味しいです。こんなに美味しいの久しぶり。」
「ただ甘いのではなく、醤油の効いたみたらしは珍しかろう。」
「はい…!」
こんなに美味しい団子を食べたのはいつぶりか。
いや、初めてかもしれない。
味だけじゃない、気持ちも染みる、温かくて優しい味。
「もう一本やる。」
「え、でも…。」
「そんなに美味しく食べてもらえるなら、団子も俺より貴殿に食べてもらいたいだろうよ。」
「あ、ありがとう…ございます…。」
彼が何となく嬉しそうに目を細めるから落ち着かなくて、見ていられなくなって、慌てて目を逸らした。
馬鹿みたいに浮ついた心に蓋をして、目前の団子を頬張った。
やっぱり誰かと食べるものは、美味しかった。
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作者名:たいる | 作成日時:2022年1月25日 15時