STORY39 約束 ページ42
すぐ帰ってくるわ。
そしたら真っ先に貴方に会いにくる。
約束よ、総悟君。
そう小指を差し出してきたAさんに、俺の小指を絡めたのはもう数時間前のことだ。
約束だと言って笑った彼女の笑顔を俺は一生忘れることはないだろう。
ほんのり赤く染まった頬は、夕焼けのせいかはたまた別の要因か。
あんな綺麗な笑顔向けられて平気でいられるわけもねェ。
それも、俺だけに向けられた最上級のソレ。
加えて『約束よ』ときた。
姉上にやっぱりどっか似てて、強ェ女。
俺が胸を打たれるのなんか必然だ。
彼女は今から実家という名の戦場に行く。
兄弟は優しいらしいが、父親はAさんに関心があんまねーらしい。
心配だ。強いのはわかってるが、それでも…。
すっかり日も暮れ、月明かりが夜を照らす。
江戸は明るすぎて星なんぞ見れねェが、あっちでは見れるんだろうか。
Aさんは月みてーな人だ。
ギラギラと燃やす太陽じゃなく、静かに俺を照らす月。
…柄にもなく感傷に浸りすぎた。
あのとき胸にさげたものも、月だった。
控えめな飾りが俺の瞳と同じ色だと嬉しそうに笑うAさんに、理性がぐらつくのを抑えるのに必死だった。
首に手を回したときなんかもう…。
「オイ総悟。てめー何してんだ。」
感傷に浸ってると目の前で犬の餌食ってる土方さんが低く唸った。
「何って…犬の餌に白い粉ふりかけてまさァ。」
「誰の飯が犬の餌だ! 珍しくしんみりしてると思って気遣ってサボりも見逃してやったらこれか! おいもう山作ってるからまじやめてくんない? てかお前ソレ何? 塩なの砂糖なの?」
「ミョウバンでさァ。」
「ミョウバン!? 理科の実験以外で使ってるの初めて見たわ! 食えんのかそれ!」
「ミョウバンは変色防止や煮崩れ防止などに使われる便利な粉でさァ。味は知らね。」
「えらく詳しいな! …ったく、避けて食うしかねーじゃねーか。せめて美味しくなる調味料でもかけてくれよ…。」
土方は少し手慣れた手つきで粉もといミョウバンのかかったマヨネーズを取り除き、何事もなかったかのように食べ始めた。
…マヨネーズが大量すぎて、マヨネーズをすくうだけの簡単な作業になったか。
次は米に浸透させ排除しにくくしよう。
反省と今後の方針を立て、俺は食堂を後にした。
______
___
仕方ねェから待ってあげやす。
早く、なんて多くは求めねーから。
…だから、頼まァAさん。
必ず俺の前にまた現れて。
___約束でさァ。
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たいる(プロフ) - わかさん» こっちにもコメントくださってたんですね!笑ありがとうございます。笑っていただけて良かったです笑笑 (2021年7月11日 17時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
わか - ミョウバンは笑った!!笑笑 (2021年7月7日 21時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たいる | 作成日時:2021年1月8日 0時