STORY26 本当の姿 ページ28
後ろから浪人が斬りかかろうとしていたらしい。
いつもなら気づかないわけねーが、Aさんに全集中してしまい気づかなかった。
真選組が呆れる。
いやでもそこじゃねェ。
「ごめんなさい、私も貴方が思ってるような女じゃないのよ。」
眉を下げ、彼女はそう悲しそうに笑った。
Aさんは俺に襲いかかった浪人を躊躇いもなく刺した。
いやその前に目にも留まらぬ速さで俺の刀を抜いた。
しかも、特に視線を動かした様子はなかった。
刺し傷、ちゃんと急所から外れてらァ…。
「Aさん、一体…。」
「私の家はね、相州の成田家。聞いたことない? 先祖代々将軍家に仕えてきた剣術の名門・成田家。」
「な…成田家…!? 名前だけは知ってやす。」
「そう。まあ兄上が跡取りだったし、女の私は特に厳しくされなかったけど。…兄上と弟は厳しく扱かれてた。やっぱり男の子だからね。」
でも、そんなの、不公平じゃない?
Aさんはまた、悲しそうに笑った。
過去を思い出すAさんは懐かしそうで、幸せそうで、でも寂しそう。
「父上がね、あまりに私のこと無視するから…兄上と弟に負けないように、一緒に鍛錬を重ねた。…結局、私のことを見てくれる日は来なかったけど。」
「そんな…。」
「母上が生きていた頃はまだマシだったんだけど、亡くなってからはもう。…ひどいよね。」
「…Aさん。」
Aさんが急に脆く見えた。
笑っているのに、笑ってない。
壊れそうで、今抱きしめないと消えてしまいそうで。
「それでね、家出してきたの。兄上にはひどく心配されたし、最後に会った弟の寂しそうな顔も忘れられないけど。…でも、他の世界も知っておきたくて。」
「Aさん。」
「ごめんね、総悟君の姉上みたいに私か弱く無いの…そんなにお淑やかでもない。騙していてごめ…。」
「Aさん!」
俺の大声で、やっとこっちを見た。
どこにも行かねーでくだせェ。
…どこにも行くなよ。
思わず抱きしめた。
腕の中の温もりに安心した。
大丈夫、Aさんはここにいる。
「全部演技だったのかィ?」
「…え?」
「俺のこと弟みたいに可愛がってくれたのも、団子屋で良くしてくれたのも、全部。」
「そ、そんなわけな…!」
「じゃあ! …じゃあ、騙したなんて言うな。俺ァアンタが姉上に似てるから好きなんじゃねェ。お淑やかだからでもねェ。…Aさんが、Aさんだから好きなんでィ!」
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たいる(プロフ) - わかさん» こっちにもコメントくださってたんですね!笑ありがとうございます。笑っていただけて良かったです笑笑 (2021年7月11日 17時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
わか - ミョウバンは笑った!!笑笑 (2021年7月7日 21時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たいる | 作成日時:2021年1月8日 0時