第三話 強化触覚 ページ5
「すみません、立ち上がるの手伝ってくれませんか?」
「構わないが。」
影浦さんのお友達っぽい人に手を引かれて床から立ち上がる。両脚の裏が地面にしっかりついたの
を確認してスカートのシワを整えた。
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。それよりカゲ、振り払うのはダメだったんじゃないか?」
「どうせこいつ怪我しないんだからいいだろ。」
「あの、大丈夫なのでいいですよ。えっと……」
「村上鋼。十八歳だ。」
「ああ、村上さん……え、No.4アタッカーの村上さん⁉」
名前しか聞いたことがなかったけどこんな感じの人だったのか。もうちょっと変わった人かと思えば
意外と紳士で普通の人だ。
「ああ。その通り。」
「影浦さんちゃんと本気で戦えるお友達がいたんですね! 安心しました!」
「お前は俺を何だと思ってんだ!」
ハッキリ言って外受けが良くないからお友達いないと思ってました、と言うと今は切り裂かれそうだ
からやめておこう。うん。
「それより大石さん、さっき言った『何も感じない』ってどういうことなんだ?」
「ああ……まず私にはサイドエフェクトがあります。強化触覚。触っただけで物の素材が分かったり、人が動いたり話したりすることで生まれる空気の振動を感知することができます。」
「すごいけど……何かあったのか?」
さすが同じくサイドエフェクトを持ってる人。便利なだけじゃないとちゃんと知っている。
「まあちょっと。肌に合わない素材に敏感で合う物しか着られませんでした。髪は長いとイライラするので伸ばしたくても伸ばせませんし、人が多い場所は空気の揺れが多くて疲れます。それで中学校では少し教師やクラスメイトと揉めまして……はい。」
「オレが言っていいのか分からないが……辛かったな。思い出させたならすまない。」
「いえ、いいんです。大規模侵攻があった後はボーダーでオペレーター兼エンジニアとして働き始めました。そこで『日常的にトリオン体でいることによる生身への影響』を調べる名目で触覚を完全に切ったトリオン体でほとんど生活してるんです。なので、衝撃も痛みも感じません。こういうわけです。」
「そうなのか。だけど触覚を遮断してるってことは……何かに触っても何も感じない、日常生活は不便も多いんじゃないか?」
「はい。四年前にこのトリオン体をもらった日から私は、衝撃も、痛みも、床の硬さも、分かりません。」
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作成日時:2020年9月12日 13時