初彼（続編） 8 (ページ7)

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357「引き止められた電話」藤ヶ谷side ページ7

藤ヶ谷side

思い立った俺は、Aちゃんを追いかけた。

公園の出入り口にほど近い場所まで来るとポケットの中の携帯が鳴る。

玉からだ。

まだ一緒？…きっと、そんなところだろう。

それに気を取られ、携帯に目を落とすと、隣接している公道から金属音のような鋭い音がし、そちらの方へ一瞬目を向けるも鳴り止まない玉からの電話。

…まさかあの時のあの音が、Aちゃんだったなんて…

知る由も無く。

俺は、玉からの電話に…

(藤ヶ谷)「もう帰る所なんだ。

遅くなって悪かった…」

(玉森)「うん～大丈夫だよ～。ありがとう～」

俺がAちゃんの為にしてあげれる事…

俺が彼女を守ってあげれる事…

…それは、こうして謝る事なんだって…

あの時の俺はそう思ってた。

キミが帰るべき場所へ…
帰りたい人の元へ…
帰す事…。

そして、帰ってからキミが玉の元で笑顔でいられるようにする事…。

そう考える俺は、既に失恋をしている事と同じ事だって思うかもしれないけど、そうじゃ無い。

誰にも言えない秘密の恋を守るって…そういう事で…

Aちゃんにしか分からない痛みがあるように、俺にしかくぐれない闇がある。

こうして、ある意味…俺が転べる勇気は、相手がキミだから。

ーキミのことが大好きだからー

………………………………

だけど、俺は、結果的にAちゃんを守れていなかったんだと今になってから気づく。

俺が玉に謝る電話のすぐ近くでまさかあんな事にAちゃんが巻き込まれていたなんて。

あの時の俺は何も知らず。

…………………………………

あれから、玉との電話を終えた俺は、携帯をポケットに投げ入れ、すぐにAちゃんの後を追いかけた。

だけど、もうどこにもいない。

こんなに夢中にさせたまま。

想いがほどけないまま何度も気配に振り返るけど、もうどこにもいない。

俺に、恋の予感一つすらすらくれないままキミは消え去って行った。

見上げれば小雨。

ふと、公道の脇に目を向けると、何やらしゃがみ込み自転車のペダルを手で回しながらチェーンを直している男性。

その背中が、小雨と重なり、やたらと悲しく目に映る。

そんな俺も…悲しみは迷子のまま公園を後にしたんだ。