表と本音。 ページ28
『帰るの夜遅くなりそう』
啓悟から来たそんなメッセージは、明らかに電子が織り成す文字列で、その文章を作るためのものでしか無かった。
「…今、どんな気持ちでいるんだろう…」
自室で息を吐いて不意に時計を見れば12時半。今日どうして出掛けたのか知らされていなかった。でも焦凍くんが"仕事"と言っていたから、屹度ヒーロー同士の会議かなにかあるんだろうか。
「長引いてるのかな…、それとも飲みに行ってるのかな」
ちゃんとご飯食べたかなぁ。私の嘘、気にしてるかなぁ。そんな事を考えながら啓悟の心中を想像するとチクリと胸が傷んだ。彼は本当の自分を殺すのが得意だから、今頃屹度笑顔でやっているのだろう。
「啓悟…」
彼から以前もらった大きなテディベアを抱きしめて、ゴロンとベッドに横たわる。低反発のふかふか布団に重い気持ちの分沈みこんで、私は目を瞑った。
そのまま寝室で意識と無意識の間を漂って船をいると、ガタン、と奥で音がした。聞きなれた音に思わず飛び起きて向かえば、ベランダの扉を閉める啓悟の姿。
「啓悟…！おかえりなさい！」
「ただいま。起きてたの？」
ぺたぺたと思わず裸足で駆け寄ると、いつもより人工的な笑顔が向けられた。戸惑い、ぐん、と身体の重くなる私に、啓悟は「あー疲れた」とソファに座るとチョイチョイと手招きをする。
恐る恐る近寄れば、「座って」と有無を言わさぬ表情で囁かれる。彼に手を引かれ、私は相向かいに膝の上に座った。
布越し、けれど確実に身体が触れ合っているこの状況に、不覚にも心臓が早くなる。彼の膝の上に座って、どうしたらいいか分からない私の顔をじっと見つめると、啓悟は不意に切り出した。
「俺さ、信じてるよ、Aのこと」
その言葉と共に、頬を弱々しく彼の手が撫でる。あ、と気づいて彼の目を見れば、眉毛を下げてなんとか笑っていた。
「だけど、今日はちょっと傷ついたし、なんなら少しムッとした。だから、ちゃんとAの口から説明して？」
「…けい、ご…」
なんて、なんて不安そうな顔。それはまるで、『ホークス、彼女』とネットで調べる度にモヤモヤを抱える時の私の顔と同じ。そして、デートで本当の姿をさらけ出してくれた時と同じ。
「ごめんなさい、その、今日はね──────」
あぁ、もうあんな顔させたくなかったのに。
心の中で自分を戒めながら、私は口を開いたのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1410人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おちゃきち(プロフ) - イッキ読みさせていただきました！あとがきにある、ホークスの恋愛観、めっちゃストンときました。凄く記憶に残るとっても濃くて良い作品だなと思いました。素敵な作品を書いてくださってありがとうございました…😭 (2021年10月15日 12時) (
レス) @page48 id: 78dc48b955 (このIDを非表示/違反報告)
かよ(プロフ) - めっちゃくちゃ面白かったです！！！最高です！！本当にありがとうござます！！これからも応援してます！ (2020年7月5日 14時) (レス) id: a82fd268db (このIDを非表示/違反報告)
紅波 - もう既に書き終わっている状態で一気読みしました。もう最高です。どこからこんなに素敵な小説が出てくるのか知りたいです...。応援してます！ (2020年6月5日 8時) (レス) id: 2ce5490af6 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 少し覗いていない間に完結していて驚きました。この2人には一生2人で飛んでいてほしいですね。(クルーズ船に乗ってる人になりたい)何はともあれ(？)完結おめでとうございます！素敵な作品をありがとうございました！ (2020年5月17日 16時) (レス) id: eee0ca23b5 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 花帆さん» コメントありがとうございます！そんな風に言って頂けて嬉しいです！ホークスをとびきり幸せにできて私も大満足です…！閲覧ありがとうございました！ (2020年4月28日 8時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あろま
| 作成日時：2020年1月2日 22時
