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帰り道、山を迂回して隣の町へ行った。単なる好奇心が一つ。
Aが嫁ぎに行く男の顔を見ておこうと思った。
疑っている訳では無いが、顔を見ないことにはどのような男なのかと安心しない。
(余程いい男なんだろうなァ…)
見慣れない隊服と刀、そして恐らく目付きのせいだろう。人からの視線を感じながら歩いていると、げっそりやつれた顔の女を見つけた。
丁度Aと同じくらいの歳だろうか、と考えていると、その光のない瞳が俺を捉える。
「あっ、あ…!き、鬼狩り様…、鬼狩り様…!」
普通ではない様子で俺の元へ駆け寄ると、混乱する俺にしがみついた。
「どうした、何があったァ?」
「た、助けて下さい…。今日の夜、隣町の友人が、"鬼に"嫁入りすることに…」
"隣町" "嫁入り" 馬鹿でも分かるだろう。頭にすぐ浮かんだのはAの微笑みだった。
「おい、どういうことだァ!?」
頭に血が登って勢いよく其奴の肩を掴むと「ひッ」と顔を青ざめさせてからぽつぽつと話し出した。
「そ、それは…、あの大きな山を挟む二つの町には風習があるんです。
1年に1度、鬼に若い娘を差し出す風習が…。そうすれば鬼はこの二つの町を襲うことはありません、そうやって私たちは、自分たちの身を守ってきたんです…。
去年はこの町で、今年は隣の町の番になって、Aが、Aが…っ」
嗚咽を漏らして泣く女に絶望する。そんなことがあっていいのか。
そこで俺は思い出した──────驚く程に、この二つの町が鬼の被害が少ないことを。
いつも茶屋から帰る際、鬼に気をつけろと口を酸っぱくして忠告しても「鬼は出ませんよ」と悲しそうに笑うAに合点がいった。
(彼奴…、ずっと前から、自分の番がくることを知ってて…)
腸が煮えくり返りそうな程怒りが湧く。それを黙っていたAも。力を持たない人間に非道な取引をもちかける鬼も。そんな風習を見て見ぬふりをする町の町長も。
「…鬼は何処にいやがる」
驚く程低い声だった。地を這う声だ。
女は目を見開いてから大きくそびえ立つ山を指さした。そうして頬を濡らしながらなんとか言葉を紡ぐ。
「あの、あの大きな山の頂上の屋敷です。助けて下さい…、私は、私は何も出来ません…!」
「言われなくてもやってやらァ」
そう答えると、俺はぐっと踏み込んで駆け出した。目指すは山の頂上。
丁度そのとき──────日が暮れて、闇に落ちた。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時