猩猩木:不死川実弥 ページ6
「私、今度嫁入りをすることになりました」
ほんの一瞬。口の中の餡子が甘さを失った。
この動揺を悟らせてはならない。俺は刹那にそう判断し、ごくりとそれを飲み込んだ。
「良かったじゃねぇかァ。俺も嬉しいぜ」
自分なりの精一杯の笑顔を浮かべてみたが、上手くできているのかわからない。
Aは「ありがとうございます」と嬉しそうに微笑んで給水を手に取った。茶が湯のみに注がれ、香ばしい匂いが漂う。
「不死川様に一番にお知らせしたかったのです」
薄紅を引いた唇が控えめにそう告げた。湯呑みを受け取る手が触れ、激しく動揺した。
(お前はなんだってそう期待させちまう事を言うんだろうなァ)
慎ましやかにAが微笑む。上品な出で立ちはまるで道端に懸命に咲く、可憐な一輪の花だ。俺のような野蛮者には決して手の出すことの出来ない、美しい存在。
「どこに嫁入りすんだァ」
「…彼処に大きな山がございますでしょう。あれを越えた隣町の、一番のお屋敷です。私なぞが見初められて…たいへん幸福にございます」
「…そうか。思う存分幸せになれよォ」
ずっと、好いた女が他の男と祝言をあげるのを望んでいた。可笑しい?否、そうじゃねえよ。
(…大切な奴には、幸せになって欲しいだろ)
弟もそうだ。本当に馬鹿な奴だ。
俺のような血に濡れた道じゃなく、平々凡々な幸せを送っていれば良かったんだ。
俺のような死と隣り合わせの奴では、Aを幸せにすることは叶わない。
長くこの茶屋にいると、Aへの想いが後を引きそうで俺は徐ろに立ち上がる。
「ご馳走さん、美味かったぜェ」
「不死川様にそう言って頂けるとやっぱり嬉しいです」
「…そらァ良かったなァ」
ふわり、先程とは違って花が咲いたように笑うAに心がぐらりと揺れた。
つい、伸ばしてしまった手を今更戻すことは出来なくて。綺麗に結いあげられた髪の毛にぽん、と手を置く。
「鬼には気ィつけろォ。夜は出歩くんじゃねぇぞォ」
その俺の言葉にAは一瞬表情を固めた。俺が口を開く前に、凛とした表情で「…鬼は出ませんよ。大丈夫です」と答える。
「あー…そうだな。この町は出たことねぇからなァ」
ぱっ、と名残惜しさを覚えながらも手を離す。
「じゃあなァ」と歩きながら振り向くと、Aは深々と頭を下げていた。
すみません!書き始めてしまっていたのでこれが書き終わったらリクエスト消化します!
388人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時