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「あ」と声を漏らしてしまう。瞬間に自分の頬に熱が集まっていくのがわかった。今のはまるで、私が想いを告げているようなものだ。
おやまぁ、と暖簾から顔を出して店主さんが笑うのがわかる。間に、なんとなく気まずいモジモジとした空気が流れる。
「お前、おはぎ好きなんかァ」
少し上ずった声。顔をあげれば、いつも見てきた険しい表情と異なった、穏やかな表情と目が合う。
「はい、好きです」
好き、大好き、貴方のことが。
そんな想いも込めてはにかむと、風柱様は「俺も好きだ」なんて返す。すぐに掌で隠してしまったけれど、彼は口元に弧を描いていて、胸が跳ねた。
心落ち着かせようと啜った茶は、餡子のせいか否か、やけに甘く感じた。
『私が払います』『いや俺が払う』というやり取りを暫くした末、『お前頑固だなァ』と笑って折れてくれた。
店から出ると既に日は傾いて、街全体が橙色に色づいていた。急いで子供たちが各々の家へ走っていく様子を眺めながら、ほんの少しの距離を開けて並んで歩く。
風柱様の隣を歩けたら、なんて夢見ていた今朝の自分に言いたい。やっと夢が叶いますよ。お茶も出来ましたよ。
『危ねぇから送ってやらァ』と頭を掻きながらぶっきらぼうに呟いた風柱様にアタフタとしてしまったけれど、今度は折れてくれなかった。
決して豪邸とは言えない家の前で、私は風柱様に向き直った。
「風柱様、今日はお付き合い頂き、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて顔を上げると「否…、俺もありがとよォ」と軽く大きな掌がその頭に乗せられる。
思ってもみなかった行動に心臓が早鐘を打つのを辞めない。あぁ、この時間止まって欲しい。そんな切なる願いは当然叶わず、掌は離れてしまった。
では、とまた頭を下げて微笑むと、風柱様は「あー」と言葉を濁す。
口を噤んでいた風柱様だったが、私が首を傾げるのを見ると、覚悟を決めたように口を開いた。
「…お前がそんなに綺麗な面してるとは思ってなかった」
"綺麗"その単語が脳内で繰り返される。意味を理解して頬が染まると同時に風柱様も頬を赤らめた。
「それから」
「また茶、しに行こうぜェ」
そう言い残し、ヒラヒラと手を振る風柱様の言葉がじぃんと胸に染み込んで熱くなる。
「はい、勿論です…!」
大きく裏返ってしまった間抜けな声に、風柱様は振り向きざまに愉快そうな笑顔を浮かべて去っていった。
鈴蘭:純粋、謙遜
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時