紫苑:不死川実弥 ページ20
この世に鬼という、人ならざるものがいるとすれば。
──────また別の、人でない者がいるのだ。
「人間の匂いがする…」
真っ直ぐに空を飛んでいた私は旋回をして右へ進んだ。通りに人がいないことを確認して人間の姿となって着地する。
芳しい血の匂いを辿っていくと、建物の物陰に男がいた。
鍛え上げられた身体の大きな傷から血を流した男にそっと近づく。
空で捉えた匂いと男の血が一致している事を確認した。息を潜めて耳をすませば、浅いながらも男は呼吸をしていた。
男が手に持つ刀と隊服を見て直ぐに鬼殺隊員だと判断した。私が生まれた江戸時代よりも前から存在している秘密裏の組織。
「こんな所にいたら鬼に喰われてしまう」
男は大量に出血していて、今は尚更格好の餌食だ。私はそう判断して男を担ぐ──────が。
「…っ!些か重いな…」
しまった、今の私は人間の姿。いつもの姿だと勘違いしてこの逞しい男を運ぼうなどとしてしまった。
私はいつもの姿に変身すると男の襟元を口にくわえる。そうして慎重に空へと舞い上がる。
「死ぬなよ、人間」
その夜──────花紺青の空には、銀色の美しい龍が姿を現したという。
湖の畔に男を寝かせる。
私は自身の身体から数枚鱗を剥がした。じんわりと血が滲むのを我慢して、また人間の姿へと変身する。
その鱗を石で擦り合わせて粉状にし、水とかき混ぜる。銀色の液体をそっと男の傷跡に塗っていくと、いとも早くに傷跡が塞がった。
私たち龍の一族の鱗は、人間にとっての万能薬となるのだ。
苦痛は消え、穏やかな表情となった男にホッとすると、私はペタリと頬に触れる。
顔にも痛々しい傷跡があった。この男程身体に傷のある者を見たことは無かった。
「…余程鬼と戦っているのだな」
こんなに傷を受けながらも、鬼と戦っているの男の姿を想像すると、なんだか胸が熱くなった。
…もう少し、せめてこの男が良くなるまで、一緒にいたい。
"好奇心"という懐かしい感覚を心地よく感じながら、私は男に身体を寄せる。
私は再び龍の姿となって、男の周りに身体を巻いた。これならこの寒い夜でも暖かいだろうし、尚且つ龍の私を恐れてこの男に近づきはしないだろう。
直に感じる久しぶりの誰かの体温に酷く安心して、私の意識は落ちていった。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時