雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

晴れと約束 ページ48

「あっ、すまない！」と勢いよく振り向くと、後ろにいた人物も振り向いた。


「いえ！此方こそごめんな──────」




目が合った。春に咲き、短期間で消え散っていく桜のような瞳。


長い艶やかな髪の毛を下ろした彼女が振り向く動作に合わせて、彼女が持っているバッグについた鈴がちりん、と音を鳴らす。



彼女の手からするり、赤い傘が落ちる。俺もいつのまにか傘を手放していた。




「あ、ぁ…」




震える手で、彼女の頬を包む。すると、彼女も口をはくはくとさせながら俺の手に手を重ねた。




「A…」


「きょうじゅ、ろ」




──────雨が止んだ。


途端、大粒の涙が溢れてきた。顔をぺたぺたと触って、撫でて、確かめる。




あぁ、Aだ。匂いも、体温も、全部全部、Aのそれだ。


思い切りAを抱き締めた。彼女の事を気遣う余裕など無かった。



(もう、もう離したくない)



そんな思いで、強く抱き締めると、Aも俺の背中に腕を回した。



「やっと、やっと会えた…！A…っ！」


「あぁ、杏寿郎。杏寿郎、杏寿郎…！」



お互い、涙が止まらない。こんなに愛し合っているのに、ずっと何かに引き裂かれていたのだから。


雨が止んで、濡れた字面が太陽に照らされて反射する。真横ではまるで俺たちを祝うように力強く噴水が上がっていた。





ひっぐ、ぅ、と嗚咽を漏らすAの顔が見たくて「A」と名前を呼ぶ。


するとAは涙に濡れた顔を上げた。



「そんなに泣いてしまっては…、可愛い顔が台無しだ」


「何言ってるの、杏寿郎だって。格好いい顔が台無しだよ」



なんて他愛もないやり取りをすれば、自然と涙が溢れた。





──────もう、俺たちを阻むものは何も無い。





する、と頬を撫でるとAはいつしかのように俺の手に頬を擦り寄せた。




「…なぁA。漸く会えたな」


「…うん、長かった。長かったね…」


「約束、したな。一緒にいようと。今度こそは…」


「しわくちゃの、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで。最期まで」




俺の言葉に続けてそう言ったAは心から幸せそうにはにかんだ。




「あぁ、そうだ。だから、だから」




こんな日が来るとは思わなかった。こんなに幸せな日が。


Aが目の前で笑っている。それだけで幸せだ。それだけで世界が満ちていく。


額をこつん、とお互い合わせて、微笑み合う








「ずっと、一緒に──────」

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