雨と天気 ページ34
杏寿郎は19歳になった。春に高等学校を首席で卒業し、今では日本でもまだ少ない大学に通っている。
教員資格を取り、武術と勉学の両方を教える場を作ろうと考えた。その杏寿郎の夢に両親は反対しなかった。
弟にとって杏寿郎の姿勢は尊敬出来るものであり、いっそう勉学に励んでいた。武術が得意ではない弟は、将来は医師になるのが夢なようである。
今日もぽつり、雨は降る。杏寿郎は常に傷跡の痛みを感じながら道を歩いていた。
あの日以来、記憶を見ることは無くなり、代わりに毎日鳩尾が痛む始末だ。杏寿郎はそれでも諦めなかった。毎日必ず煉獄杏寿郎に関わる書物や私物を目にした。
今日も今日とて佇むAは相も変わらぬ姿をしている。
──────死んだ時の、18歳という見た目のまま。
美しい、そう感じて杏寿郎は数メートル手前で止まる。書物で知ったのだが、異国には木乃伊というものがあるらしい。
彼女はまるで美しい木乃伊だ。美しいまま永遠にこの世に存在する。死んでいるのに生きている、生きているのに死んでいるのだ。
不意に意識を現実に戻すと、Aが此方を向いていた。嬉しそうに目を細めて手をひらひらとあげる。そのしおらしい動きに伴って鈴がちりちり返事をするのだ。
「やぁ、いい天気だな!」
「ふふ、何言ってるの、雨なのに」
それまで考え事をしていた杏寿郎は見事に真反対の発言をしてしまった。霧が杏寿郎を揶揄うように肌にまとわりついてくる。
「む…、よもや、反対のことを言うとは」
杏寿郎は困ったように眉をピクリと動かした。どれだけ自分が考え込んでいたか思い知らされたようで、己の思考に動揺していたのだ。
そんな杏寿郎に笑みを零していたAであったが、ひとしきり笑い終えるとふぅ、と愁いを含んだため息をつく。
「…でも、杏寿郎の中ではそうなのかもかもしれないね」
首を傾げる杏寿郎に目をやらずにAは語り出した。桜色の瞳に影がさして雰囲気を乗り換えていく。地面を見つめる目は一体、本当は何を見つめているのだろう?
「私の世界は雨だけど、杏寿郎は太陽みたいに明るくて、温かいから…。
杏寿郎の世界はずっと晴れてるよ。何処までも続く青空。貴方の優しさの分だけ晴れている気がする」
だからこんなに貴方といると心強い、とAが続ける。辞めてくれ、そんな風に笑わないでくれ。
──────なんて、なんて幸せそうに、儚げに微笑むんだ。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時