雨と"男" ページ11
勉学に勤しんできた杏寿郎だったが、煉獄家の書物で見た内容が衝撃的であったため、集中力を欠いた。
それまでの高成績が落胆したため、両親からお叱りを受けた。剣術の稽古も1本取られるようになってしまった。
その頃はもう杏寿郎は14になっていた。
(これでは駄目だ。俺は何をしているんだ!)
女の事も、勉学も、武芸も、全てが中途半端になっていた杏寿郎は己に心の中で喝を入れた。
一旦女と"煉獄杏寿郎"のことは忘れて心身共に鍛え直そうと、杏寿郎は励んだ。
それから間もなくあの雨の日が訪れた。
武芸の稽古を終えると杏寿郎は深呼吸をしてから歩き出した。
心を落ち着かせながら、雨の音を聴きながら歩を進める。
女はいた。
相も変わらぬ様子で佇む女に杏寿郎はホッと息をついた。
「今日も雨ですね」
女の隣に並ぶと女は目を丸くしてす、と杏寿郎の袴に白いたおやかな手を寄せる。
「杏寿郎くん、声変わり…」
「はは、漸くしました」
その手にドキリとしながらも杏寿郎は朗らかに笑った。こんなことで心が動揺する様では駄目なのだ。もっと父の様な寛容な男にならなくては。
そんな杏寿郎の誓いを捻じ曲げるかのように、紅を引いた唇が弧を描く。
「杏寿郎くんも大人になったのねぇ…」
まるで母親の様な口振りに杏寿郎は眉をピクリと動かした。傘を持つ手に力が入る。
杏寿郎は気づいた。自分が恥ずかしくないように鍛えようとも、女の中では杏寿郎は"可愛い弟"のようなものなのだ。
──────そんなことがあって堪るか。
杏寿郎は肩に触れたその手をぐ、と握った。桜色の目が見開かれる。そうして以前より大きくなった身体を押し付けるように近づけた。
──────ちりん、簪の鈴が揺れて音が鳴る。
「──────女性が気安く"男"に触れてはなりません」
杏寿郎は驚いた。こんなに低い声が出るのか、と。
女の顔が目の前にある。いつもはぼんやりしていたり、寂しそうな顔が、驚きと動揺、そして羞恥の表情をしていた。
ほんのりと頬を朱に染めて「杏寿郎くん…?」と名前を呼ぶ姿に杏寿郎は心臓が早鐘を打つのを感じた。
「杏寿郎、とお呼びください」
囁くと女は睫毛を震わせながらこくりと頷いた。初めて握った女の手は、外気のせいか冷たかった。
否──────自分の手が熱かったんだ。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時