あたしにケーキは必要ない. ② (ページ29)

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# 夜だけでも、ひとりじめページ29

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『…りょう、頼むからこういうドッキリやめよ』

「ふふ、ドッキリのつもりじゃないんだけどなぁ。楽しくなかった？」

『楽しかったからこそやん、驚きが大きすぎる…』

ごめんごめん、と口では謝りつつも顔は満面の笑みのままのりょうが、お洒落すぎるイタリアンレストランの出口にいるウェイターさんに軽く会釈をする。釣られるように私も会釈すると、足元気をつけて、と軽く手を取られて所謂"エスコート"をされる。

「…虫さんがね？Aがこの1週間すっごく忙しそうにしてるって教えてくれたの」

レストランを出ても尚、エスコートされたまま向かった車内で、エンジンをかける手を止めてりょうが小さく呟いた。

『虫さんが？』

「そう。Aって普段どんだけ聞いても忙しいって言わんやん？だから大丈夫かなーって思ってたら、虫さんが前の撮影の日にAのマネージャーさんから聞いたよって言われて。」

『…海ちゃんと虫さんが話してるの想像付かんすぎん？』

「ね、俺もそう思う」

私のマネージャー__海ちゃんは普段めちゃくちゃ綺麗なお姉さんって感じの人なんだけど、時折フランクすぎてビビる時があるような人だ。だから虫さんと仲良くてもおかしくはないんだけど、そんな話は海ちゃんの口からは一言も聞いてない。この1週間ずっと一緒にいたのに言わなかったってことは、よくある海ちゃんの「仕事の話じゃないから言い忘れてた」現象かな。(笑)

『えー…あとで海ちゃんに聞いとこ』

「ふふ、是非そうして。ってことで、休みの日を有益に使いたがるAのために俺がトミーたちに声かけて連れ出してもらったの。本当は俺が連れて行きたかったんだけど、昼は仕事だったから行けなくて」

だから、夜だけでも一緒に居たかったんだ。

ぽつりと呟かれた言葉に、思わず少しだけ胸がときめく。

「…せめて夜だけでも、Aをひとりじめしたかった」

ダメかな、なんて。珍しく自信なさげに零れ落ちた言葉に、無意識の内に全力で首を横に振る。

『いいよ全然、むしろこんなに楽しい休日をくれてありがとうって思うし、』

「ふふ、ほんと？でも働き詰めで疲れてたでしょ？」

『疲れてたけど…それも吹き飛ぶぐらい楽しかったよ。昼も、今も』

「そう？ならよかった。…じゃあ、」

ちら、とこちらを見たりょうの口元が弧を描いた__まさか。

「もう一箇所、ついてきてくれる？」

『…え？』

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