あたしにケーキは必要ない. ② (ページ30)

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# 優しい彼との約束ページ30

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「…、A。着いたよー。」

『…ん、…ごめん、ねてた』

「全然いいよ、歩き回って疲れてたもんね。おはよ」

『おはよ……ぁ、え、？』

「ふふ、なんかサプライズみたいになっちゃったね」

おいで？と首を傾げて手を伸ばしたりょうの後ろに広がるのは、まんまるい月がぽっかり浮かぶ紺色の空と、__重たく揺れる、夜の海。

『……きれー…、』

「でしょ、ここ穴場なんだって。友達に教えてもらって一回来たんだけど、その時に今度絶対A連れてこよって思ったんだ」

よくあるビーチほど視界は開けていない岩場の間だけど、今私たちが居る所だけはまるで絵本の世界のように綺麗な景色が見えるようになっていて、何だかとても幻想的だ。

「……ねぇ、A」

『んー？』

サァア、と波が引く音が夜の闇に吸い込まれる。私よりも陸側に居るりょうの方を振り向くと、ぽつりと立った街灯に微かに照らされた彼の顔が見える。一重瞼で少し細められた目が私を捕らえて、ゆっくりと彼の唇が開いた。

「……どこにも行かないで」

彼にしては珍しい、弱々しい声だった。

『…行かへんよ、急にどうしたん？』

「いや、別に…なんとなく、どっか行っちゃいそうな気がして」

『ええ、私なんかしたかな、(笑)』

「何もしてないけど！…ただ、なんとなくだから」

焦ったようにこちらに軽く駆けてくるりょうは、本気でそう思っていたのか困ったように眉尻を下げて笑っていた。ほんとに、彼は優しい人だ。

『りょう。』

「ん、？」

『…私、幸せやから』

だからちゃんと、伝えなきゃ。

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