あたしにケーキは必要ない. ② (ページ12)

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『何それ』

「星の王子さまに出てくる、キツネさんの台詞。"飼いならす"っていうのは、"絆を結ぶ"ってことなんだよ」

『へー…』

…なんだろう。虫さんが何を言いたいのか殆ど読めない。

「…どうせまた、自分なんかが～とか馬鹿なこと考えてるんでしょ」

『馬鹿って…失礼な』

「否定しないってことは考えてたんだ。ほんとお馬鹿さんだね」

ぽこ、っと間抜けな音を立てながら私の頭を虫さんの持つ本が押さえつける。単行本って本当は薄くて軽いはずなのに、何故か今はそれが重くて堪らなくて。そのまま俯いたままで居ると、柔い微笑みを浮かべた虫さんが私の顔を覗き込んだ。

「なーにそんな暗い顔してんの。誰もAのこと責めてないよ」

『…うん』

「…ねえ、A。僕が言いたいこと、わかる？」

『…わからん、』

不意に、日差しを遮っていた本が退かされて、改めて虫さんと至近距離で目が合う。…なんでこの人は、こんなに優しい顔をして、こんなに私を絆すのが上手いんだろう。

「…Aが俺らを手離さない限り、俺たちはAを手離す気は無いよ」

優しく、風が吹いた。

ふわり、ふわりと揺れるカーテンが、私と虫さんの間に流れ込む。

「俺たちは、誰もAを嫌いになんかならないから。」

だから、大丈夫。虫さんがそう言った瞬間、カーテンは元の場所にするりと戻って行った。

…暫しの、沈黙。

「…なんて、カッコつけたこと言ったけど結局は僕らが離れたく無いだけなんだけどね」

『…え？』

「だーかーらー、僕らがAと一緒じゃなきゃヤダって言ってんの！」

ぶんぶんと本を振り回しながら照れ隠しのように大声を出す彼は、真剣だった虫さんからもういつも通りの虫さんに戻っていて。

「ほら、特にてっちゃんとかとしみつはね？あとりょうくんもAがいないと案外ダメな人になるし、ゆめまるも飲み相手居なくて寂しそうだし、しばゆーも息子の話とかしたがりだし…勿論、僕もだけどね」

へへっと笑って鼻頭を掻く虫さんは、何故かどこか誇らしげで。…また、彼に助けられたなあ、なんて。

『…虫さん、』

「…あー！やめやめ！もう一冊読もう！」

照れ隠しのように少し大きな声を上げる彼に、ひとことだけ、優しい風に乗せて。

『…あんまり本読みすぎたら、本当に本の虫になっちゃうよ』

「……殴るよ？」

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