34.背中 ページ34
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自惚れんな。お前は独りで泣けるほど強くない。
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和也「乗れ」
「……え？」
和也「早く！乗れや！」
「はっ、はい！」
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急に二宮さんが私に背中を向けて来たから何事？ってぼけっと見ていればそれはどうやら、おんぶをしてくれる合図。
そんな先輩に私を背負わせるなんて、ってしばらく抵抗していれば思い切り怒鳴られて
私はおんぶされる以外の選択肢を見事に潰された。
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おずおずと二宮さんの背中に乗れば、グイッと勢いよく立ち上がって
「しっかり掴まってろよ」って囁いて信号が青になった横断歩道を渡る。
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私の手には折れたヒール。
ぶらんぶらん、とぶら下がる痛みが走る右足。
なのにさっきと違うのは涙が引っ込んだことと、心の奥底が温かくなったこと。
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ふわりと香るのは懐かしい煙草の香り。
……お礼に、メビウス箱買いしよう。
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いつもと違う目線。二宮さんはいつもこんな高さから街を見てるんだ。
軽々と私を持ち上げた腕力。私より細そうなその腕は意外にゴツゴツしていて男らしい。
ぎゅ…と首に両手を回して、えりあしに顔を埋めると鼻いっぱいに二宮さんの香水の匂い。
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和也「お前、見た目より重いのな」
「はっ！？あっ、すみません！すぐ痩せます！直ちに痩せます！」
和也「嘘だわ(笑) むしろ意外に痩せてんのね。ちゃんと食わなきゃ死ぬよ」
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くふふふ、って冗談を言う二宮さん。
それは二宮さんなりの配慮なんだってこと、今ならもうわかってる。
入社してからしばらくは分からなかった。二宮さんはただただ厳しくて、鬼で。大嫌いだった。
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でも、離れた今ならわかる。
二宮さんは、優しい人だ。でもその優しさがうまく表現できないだけで。
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数分歩いて、会社に戻る。おんぶされた私を受付嬢の子たちがびっくりした顔をして見つめてくる。
そりゃそうだよね。あの二宮さんだもん。通りすがる女子社員の視線が痛い。
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エレベーターに乗り込んで、オフィスに辿り着く音。
そして二宮さんの足が、オフィスに入り込んだとき。
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世界が一変する、物語が始まる。
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35.シンデレラはクロックスで→←33.世界はこんなに暗かったっけ
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