29.少しだけこの痛みを感じてくれないか ページ29
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あの日。
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ーーー…『露骨に私を嫌わないでください！』
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あんなことを言ってしまったからか
仕事上以外では二宮さんは、一切私と話してくれなくなった。
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誰も栗きんとんちゃんは呼ばなくなり
飲み会に行っても「残念。栗きんとんはないよ」といういじりもなくなり
世界はすっかりクールビズに入り。
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あんなに毎日怒られていた日々が、やけに懐かしく感じる。
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櫻井さんとの企画はゆっくりと、着実に進んでおりもう少しで完成。
仕事はやり甲斐を感じているし、最近は毎日少しずつこの世界にも慣れてきた。
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ーーー…この企画が終わったら
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翔「Aー」
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私の教育係は、本当に二宮さんに戻るのだろうか。
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「なんですか？」
翔「次会議室で、会議だからセッティングお願いしていい？」
「わかりました」
翔「ありがとう。よろしく」
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これも新人の仕事。パタパタとオフィスを出て会議室へと向かう。
床にヒールの音が吸収されていく。
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すっかり慣れた手つきで、一つ一つの席に資料を置いていく。
早いけど正確に。
いつかの二宮さんの言葉。
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終わりに差しかかった頃合い。
ゆっくり扉が開いて革靴が見える。私はそちらに見向きもせずに決めつけた。
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「あ、櫻井さん。もう終わりーーーー…」
「ます……」
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久しぶりに、茶色すぎる瞳にちゃんと私が映った気がする。
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和也「…誰が櫻井だよ」
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ハッと鼻で笑った二宮さんは私を一瞥して、部屋の端っこに向かったかと思えば
ポケットからクシャクシャになった煙草を取り出してライターで火をつける。
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「っえ！？ちょ、ここ会議室ですよ！」
和也「んなの見りゃ分かるだろ」
「喫煙所行ってください！」
和也「バカみてぇに人がいたんだよ」
「じゃあ外に」
和也「だるい」
「じゃあ吸わないでください」
和也「無理」
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相変わらず横暴な…！知りませんからねって言ったら「何回もしたことあるからバレりゃしねぇよ」って笑う、二宮さん。
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久しぶりの二人きりの空間に
確実に喜んでる自分がいた。
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