26.運命と共鳴 ページ26
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「二宮さん！」
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さっきまで私が一人で歩いていた廊下を、猫背で歩く姿がゆらゆら動いていたから
思い切って少し大きめの声で名前を呼んでみる。
するとぴたり、と見事に歩く足が止まったので慌ててその背中に駆け寄る。
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「二宮さん」
和也「何」
「あの。わたし」
和也「急いでんだよね、俺。悪いけど」
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二宮さんの罵詈雑言は慣れている。
どれだけ酷いことを言われても全然耐えられていた。なのになんでこんなに傷つくのか。
何も言えなくなるのか。分からなかった。
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じゃ。って再び歩き出す二宮さんが向かうのはエレベーター。
何か言わなきゃってそれだけが先走って
気づけば
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「なんでそんな冷たくするんですか」
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とんでもないことを口走っていた。
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なんで冷たくするのか。そんなの初歩中の初歩だったはず。
二宮さんが厳しくするのは私が言われたことをできないから。
冷たいというか、厳しかった。でもその理由を聞くことはしなかった。
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だって、二宮さんはずっと優しかったから。
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二宮さんがエレベーターのボタンを押す。
ボタンがオレンジ色に光り出す。
どうやらエレベーターの箱はかなり上にあるらしい。
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縋るように見つめ続けていると、二宮さんはゆっくりと唇を開いた。
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和也「…なんで冷たくするのかって？」
「…え、あ」
和也「お前が俺の手中からいなくなったからだよ」
「…え……」
和也「関係ない奴に優しくできるほど、俺も出来た人間じゃないんでね」
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ぴんぽーん。
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エレベーターが辿り着く音が鼓膜を揺るがす。
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「優しくって…、いつも優しくしてくれてたんですか？他の人には私なんかよりもっと優しくしてたじゃないですか！ニコニコしてたじゃないですか！」
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エレベーターの扉が開く。
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「他の人のことは簡単に褒めてたじゃないですか！」
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二宮さんの足がエレベーターに吸い込まれてゆく。
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「そんなに…、」
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姿が見えなくなる。
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「露骨に私を嫌わないでください！」
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扉が閉まった。
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