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いつからここにいるか分からない。
何年もいる気がするような、もしくは何十、何百年いるような。
ここの地面には薄く水が張ってあり、桜の花弁が浮いている。
昔の思い出を振り返っていると、おれの後ろから誰かが歩いてくるような音が聞こえた。
ここには長らくおれしかいなかったのに、誰だろうと思い振り向くと、
『……蘭丸さま…?』
今は亡き主君が、おれの大好きな蘭丸さまがそこに立っていた。
思わず駆け出してぎゅうっと抱きつく。
『蘭丸さま、蘭丸さまぁ…っ』
抱きしめる腕の力を強めると、優しく頭を撫でてくれる。
蘭丸「…一振りにしてごめん…寂しかったよね」
『ううん、薬研が一緒にいてくれたから…寂しくなかったよ』
蘭丸「薬研…そうか、彼は安土城にいたから……」
あぁ、あたたかい。久しぶりに感じる、蘭丸さまの体温に涙腺が緩む。
『蘭丸さま、帰ろう。殿とゆきちゃんのところ』
蘭丸「……ごめん…それはできない」
『え…』
蘭丸さまは苦しそうな表情でそう言う。そして、ふと歩き出した。
『……蘭丸さま、』
着いて行こうとすると、蘭丸さまは振り向いておれの後ろを指さす。
蘭丸「お前は、あちらに行きなさい」
『…ど、どうして?おれと一緒じゃだめなの?』
蘭丸「うん。私は、お前と一緒には行けない」
『でも、』
蘭丸「…私は、もう死んだ身だから」
蘭丸さまは悲しそうに笑う。この人がもういないという現実が突き刺さるような心地がした。
『…そっか、分かった』
蘭丸さまはおれを一層強く抱きしめる。
蘭丸「ごめんね。ありがとう。愛しているよ、私の…」
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