ブランクルーン - ﾌｪｲ･ﾙｰﾝ - (ページ20)

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❑忘れるな。ページ20

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自室へと、重い足取りで戻ったフェイはベッドへ倒れ込んだ。
じわりと目元に溢れる涙を、毛布が優しく吸収していく。

毛布へ顔を擦り付け、溜め息も出ない。
息をすることさえ億劫になる。A・ウィルドが居ない世界。ただ、それだけなのに。

芯のない人形の様に体を起こしたフェイは、天井を見上げて。
重量に引っ張られたように仰向けに横になる。

目を閉じれば「歩いて」と何度言おうと直ぐに飛んでしまうAが、すぐそこに居るのに。
この世界のどこにも、インタラプトに繋がる物が存在しない。

「SARUが持ってたの……Aなのかな」

クロノストーンとなった、Aなのではないか。
ふと思い立って体を起こした。それなら、クロノストーンから人間に戻れば、抗えない「事象」として、Aは生きていけるのではないか。

首を振ったフェイは、膝を抱えた。

答えは1つ、否だ。

円堂守がクロノストーンになった理由と、歴史の修正の仕方。
円堂大介のクロノストーンとその後。

照らし合わせても、Aが元に戻った所で完全に消えてしまうのが見えてしまう。

クロノストーンとなっている今、Aが消える運命に抗っている証拠。

「…抵抗している？」

顔を上げ、天から降りた蜘蛛の糸が見えた。
縋るように1つの仮説を立てる。

フェイは瞼を閉じて、Aの見に起きた出来事をひとつひとつ辿っていく。

「僕の知っているAの全て……」

それは、幼い頃にSSC遺伝子の暴発を受け、両親と引き離されたこと。
狭い部屋の中で満足な生活も、保護もされずに、衰弱していた所をSARUが連れてきた。

霞んでいく記憶の中に、まだAは居る。

「A……君は、A・ウィルド」

白い髪をして、甘くて柔らかい赤い瞳。
ほんのり色付いた桃色の唇に、折れそうに細くて柔らかい体。

とても、小さな声で名前を呼ぶ。

声を張ることも、長く歩くこともまだ得意じゃないAは、いつだってその力を使って声をかけていた。

“フェイ”

忘れるな。

“フェイ”

絶対に、この声を。

何度も、何度もAを思い出して。
極稀に笑った顔を見せてくれるAに、名前を呼ばれるその瞬間の心臓の高鳴りを忘れるな。

端末を開き、冷静に。
名前とフェーダとの出会い、関わり方を記していく。

「A・ウィルド…」

頬に伝う涙に、瞳を伏せたフェイ。

「僕の……大切な子、」

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