藤に憧れた君へ ページ2
ううう、と唸り苦しむ友人を取り囲むのは、安倍晴明という陰陽師と、その部下たち。彼らはここに、友人に取り憑くナニカを祓いに来たのだという。
横たわる友人の周りをジャンバラジャンバラうるさく踊り回り、やれ九字じゃ鬼門を封じよ蠱毒を用意せいと家を荒らし回るこのお祓いとやらも、すでに三回目である。
「嗚呼、その苦しみは貴殿の体内にあやかしが這いずり回っている証です!!」
安倍晴明はまた狂ったように踊り出した。金を遣うだけ遣って無駄に騒ぎよって、こんの恥知らずが。もう一人の友人の道雪が、険しい顔で呟いた。
■□■□
「う、うう。ぐ……る、しい……」
祓いが終わるのは、いつも蠱毒が身体を蝕む痛みが和らぐころだった。
「蠱毒の回りが思ったより速いですね」
脂汗を拭うのは、彼専属の医師の宮藤という男だった。二十歳までしか生きられないと告げられた彼を、少しでも生き永らえるよう苦心し尽くしてくれている善良な医者。
───なのかもしれない。
宮藤医師が使用する薬は、主に興奮剤。医師曰わく「気性が荒くなるのは良いこと」らしいが、どちらかというと無理に怒っているように見えてならない。
「宮藤は……私に、尽くしてくれているのだ」
「……それはわたくしや道雪も理解しています。ですが、」
「お前に私の病を治すことができるのか!?」
それから私は顔も見たくないと、生家に送り返されてしまった。
■□■□
数ヶ月後、彼から一通の文が届いた。身体が羽根のように軽いのだと、他の医者に診せたが問題は無かったという。
いつか道雪と共に藤を見に行こう。
彼はまだ古い約束を覚えているらしい。咲き乱れる藤の花に囲まれて、彼と、道雪と笑いあう風景が脳裏に浮かんだ。
「無惨、ですね」
「……」
「あなたが望んだのは、こんなものではないでしょうに。無惨ですね」
大量の血を、コプ、と鳴らせて口から吐き出した。まさか片腕が腹を貫通するとは思いもしなかった。
「お、前は、誰だ……? 私のなんだ? 私は何者なんだ、名前は……」
彼は自分の名前すらわからなくなっていた。
「……いつか、藤を見に行きましょうね」
夜の藤も美しいのですが、昼の藤もとても美しいんですよ。
強い眠気が襲った。きっとこれは夢で、もし起きたらいつも通りになってるはずだから。彼らと藤を見に行こう。
ズル、と腕が腹から抜けて、Aは眠りについた。
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作者名:クレイジーnight | 作成日時:2020年4月18日 2時