邂逅(２)(7/29改稿) ページ3
兎も角、今は一刻も早くこの場から動かなければ。誰ともなしに言い始め、我々は森の中へと歩みを進めた。行くあてなどない。しかしいつ豚共が我々を追ってこないとも限らない以上、闇雲にでも動かなければならなかった。
「歩けるか」
「大丈夫よ」
蒼鬼の気遣いを有難く受け流す。どうやら、先程まで一か所に留まっていたのは私の意識の回復を待ってのことらしかった。既に無駄な時間を取らせてしまっているというのに、この上さらに迷惑をかけるわけにはいかない。幸いにも私の打ちどころは悪くなかったようで、疲労と少しの痛みはあれど、ほとんど問題なく活動することができた。
藪を抜け、岩穴をくぐり、できるだけ遠くへ。豚共の手の届かないところまで。ただひたすらに歩み進めるうちに、周囲の風景やそこに住まう種族たちは、同じジュラの森の中でも見慣れないものばかりになっていた。
異郷の地にいるという、不安。
いつ襲われるかという、恐怖。
更に憂いを掻き立てたのは、今の私は守られる側にあるという事実だった。私の体を案じてだろうか、先程から私のすぐ後ろには蒼鬼がついているし、護衛として姫様のお側に控える紫鬼もちらちらと私の様子を気にしながら歩いている。
私は常より、どんなに強大な存在が目の前に立ちはだかろうと、皆を護らねばと奮い立つことで恐怖を打ち払ってきた。しかし今はどうだろうか。護るどころか護られてしまっては、恐怖を拭えない。不安を打ち砕けない。誰かを護るために立たない私は、ただのか弱い女でしかない。
「まだどこか痛むのか」
不意に後方から低い声がして、私の頭の中に立ち込めていた暗雲はパッと霧散した。振り返ると、声の主が相変わらずの鉄仮面でこちらを見据えている。気遣うような言葉だが、声色は平時と一切変わらないし、眉すらぴくりとも動かしやしない。
「大丈夫って言ったじゃない」
語気強めにそう返すと、彼は無言でまた後方へと戻った。言葉通りに受け取ったのではないだろう。恐らく彼は、みなまで聞かずとも私の心の内などとうに悟っているのだ。彼は私の心の機微に人一倍敏感であり、私のお役目に対する想いもよく理解してくれている。その上で何も言わずにいてくれるのだ。
そうだ、彼は昔からそういう人である。そのことは私も若もよく知っていた。そしてきっと、これからもそうあり続けるのだろう。
──とは言えども、
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 111人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
朝末(プロフ) - あまねさん» コメントありがとうございます！ もう少しで書き直しが終わりお話をすすめることができると思いますので、楽しみにしていてくださると幸いです！ (7月29日 18時) (
レス) id: f5732f5d35 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - あいしてます (7月29日 18時) (レス) @page13 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
白銀刹那(プロフ) - 彼岸さん» 彼岸さんありがとうございます〜！ まだまだ稚拙な文章ではありますが、彼岸さんにそう言って頂けて光栄です。更新は遅いですが、これからもよろしくお願い致します！ (2021年11月23日 23時) (レス) id: 555d63839c (このIDを非表示/違反報告)
彼岸(プロフ) - 更新……されている……！！ありがとうございます好きです！！！ (2021年11月23日 17時) (レス) @page13 id: b599ba290c (このIDを非表示/違反報告)
白銀刹那(プロフ) - ふーちゃんさん» ありがとうございます！ そのように言っていただけて光栄です。本日更新させていただきましたので、楽しんでいただけると幸いです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (2021年3月25日 17時) (レス) id: 3fd80a9c93 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：朝末 | 作成日時：2020年3月2日 15時
