圧倒(３) ページ13
魔人の手から放たれた火炎は、恐ろしく揺らめきながら我らの上空を包む。それは若の炎のような暖かみのある色彩とは程遠い、どす黒い闇のような炎。昼の森に射しこむ陽光をも遮り、場はまるで洞穴の中のように薄暗い空間へと変貌した。
「あれは……あの炎は周囲の魔素を利用した妖術ではありませぬ！」
姫様の悲痛さを含んだ声がこだまする。
姫様はいつだって巫女姫として堂々たる姿勢を我々に見せてくれた。同じ巫女の称号を持つ者として、常に憧れとして居てくださった姫様。その姫様が発した驚愕とも、恐怖ともとれるその声色は、私の心を折るのには十分すぎるくらいだった。
「あの炎を形作っているのは純粋にあの者の力のみ……炎の大きさがそのままあの者の力……！」
黒く揺らめく炎は、尚も途絶えることなく魔人の手から溢れ出す。
並の魔人にできる芸当ではない。下手をすれば、魔王や竜種の持つような能力。
「どうする？ まだやるか？」
少女のような顔がニヤリとした笑みを浮かべながらこちらに語り掛ける。
あれ程の力を使っても尚、笑っていられる余裕があるというのか。疲れた様子ひとつ見せない魔人の姿を見て覚えた感情は、畏怖か、それとも高揚か。魔物の本能が、強大な力に心を震わせているのを感じる。このように強い主を持ち、ホブゴブリン達は誇らしいだろう。
「若、姫を連れてお逃げ下さい。ここはワシが」
老鬼が言葉を紡ぎかけたが、若は「黙れ」と制しそれを最後まで言わせなかった。
それは、次期頭領としての誇りからか、これ以上愛しい同胞を喪いたくないという想いからか。あるいは、その両方であったのかもしれない。
私も共に逝かせてくれ、という想いは声にならなかった。喉から出たのはヒュウッという苦しげに呼吸をする音。
今にも命を投げ売ろうとする二人に声をかけようとするもの、共に逝こうと動こうとするもの。地に叩きつけられ、動きを封じられた我等四人はそれぞれの想いを抱え足掻く。しかしその想いが二人に届くことは無く、今にもその命を捨てて魔人に切りかかろうとしていた。
身分の違いも理解せずに若と親交を深めた幼き日のことが、走馬灯のように思い出される。
きっと蒼鬼も同じ想いを抱えている事だろう。止めることも、共に逝くことも出来ない我が身が恨めしい。
三人で共に森をかけたあの日々は、もう帰って来ないのだろうか？
「お待ち下さい、お兄様！」
桃色の御髪をなびかせて、姫様が駆け出した。
続く (更新停止中)
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朝末(プロフ) - あまねさん» コメントありがとうございます！ もう少しで書き直しが終わりお話をすすめることができると思いますので、楽しみにしていてくださると幸いです！ (7月29日 18時) (
レス) id: f5732f5d35 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - あいしてます (7月29日 18時) (レス) @page13 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
白銀刹那(プロフ) - 彼岸さん» 彼岸さんありがとうございます〜！ まだまだ稚拙な文章ではありますが、彼岸さんにそう言って頂けて光栄です。更新は遅いですが、これからもよろしくお願い致します！ (2021年11月23日 23時) (レス) id: 555d63839c (このIDを非表示/違反報告)
彼岸(プロフ) - 更新……されている……！！ありがとうございます好きです！！！ (2021年11月23日 17時) (レス) @page13 id: b599ba290c (このIDを非表示/違反報告)
白銀刹那(プロフ) - ふーちゃんさん» ありがとうございます！ そのように言っていただけて光栄です。本日更新させていただきましたので、楽しんでいただけると幸いです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (2021年3月25日 17時) (レス) id: 3fd80a9c93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：朝末 | 作成日時：2020年3月2日 15時
