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それにしても……そういう事情をさておいてみれば、この人、ロマンスグレーの総髪で、私達の年代の女親としては年配といった風だが、やけに格好いい。
女優さんみたいだ。まさしく、ナイスミドルという言葉が相応しい。
のろけになりかねないようなことを言わせてもらえれば、相川真冬はクラスにおいて深窓の子息と言われるほどの美人なのだが、なるほど、こういう息子にはこういう母親がいるものなのか。
うーん。
母親が格好いいというのは本人が格好いいよりポイントが高いよな……。
「どうしたの、Aちゃん」
しばらく距離を進んだところで、隣に座っている相川が、私に話しかけてきた。
「随分と無口じゃない」
「あのね……お前、今の状況、わかってんの？」
「わからないね。今とはいつ。状況とはどんな漢字を書くのかな」
「そんなところからわかってないのかよ！」
とぼけやがって、この男。
人の気も知らずに。
「Aちゃん。初めてのデートだから緊張するのはもっともだけれど、でも、そんなことじゃ、持たないよ。夜は長いのだから」
「うん……」
私は今初めてのデートだから緊張しているわけじゃない……！
夜のデートが意味深長だとか考えていた頃の自分が本気で懐かしい。あの頃の私は幸せだった。
夜が長いという事実が、正直、ただただ恐ろしい。どうして夜は長いんだ。
今はただ、この時間が一刻も早く終わってくれればと、私は願っている……。
「ねえAちゃん」
相川が平坦な口調で言う。
しかし、こいつには緊張はないのだろうか。
「僕のこと、好き？」
「…………！」
ものすごい嫌がらせを受けてる！
毒舌以外にも、こんなことができるのかこいつ！
「答えてよ。僕のこと、好き？」
「…………」
「何。答えてくれないの？ Aちゃん、まさか僕のこと、好きじゃないのかな」
嫌がらせだ……。
この上ない嫌がらせだ……。
「す、好きです……」
「そう」
にこりともしない相川。
無表情この上ない表情だった。
「僕も好きだよ。Aちゃんのこと」
「どうも……ありがとう」
「いえいえ」
……ていうか。
お前は平気なのか。
実の母親の前で、そんな会話をすることが本当に平気の平左なのか……いや、違った、こいつは私に嫌がらせをするためなら、自分が傷を負うことをためらわない性格なのだった。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年7月24日 23時
