きっと間違いだった。 (ページ8)

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初対面はそりゃあもう最悪だったと断言出来る。

勝手に遠目から観察していた此方が言える立場では無いだろうが、双子共々この時点でヤバイ奴だと確信していたし、関わらない方が身の為だと本能が告げてた。

なので極力避けよう、と思っていた、のに。

何の因果か──彼に目を付けられていたらしいのだ。

「なぁに、エビみたいにビクッと後ろに下がっちゃって」

急に現れたフロイド・リーチに対応が遅れ、私は精精一回り以上も大きい彼の胸元を見る事と、抱えていた教材に力を込める事しか出来ない。声を発するのもままならない状態で、体は正直なのか彼から距離を取ろうとしていた。

「エビ──ん～、小さいから小エビちゃんかなー」

彼は確か2年だと言ってた筈なので先輩だろうと考えつつ、しかし如何やって逃げるかで頭は一杯である──現段階で頼れる先輩も友人も不在だからだ。その為、その場で出来上がった謎のあだ名に突っ込みを入れる事は愚か、意識さえ向かなかった。

「ねぇー、聞いてる？」

その声で視線を上げれば、彼の顔が間近にあり小さく悲鳴を溢す。首が折れると危惧していたので(加えて怖かった)、今迄まともに彼の顔を見る事はなかった。なので初めてしっかり顔を見たのだが──美青年だ、顔が良い。

ちょっと意味が分からない。

垂れ気味の目を更に垂らし人懐っこそうな笑顔を浮かべ、鮫を連想するギザギザとした歯を覗かせる。この歯で噛まれたら死ぬなと、馬鹿な考えが浮かぶ──噛まれません様に。

「オレは別に取って食おうとか、そんな事しねぇよ？楽しい事が好きってだけでさぁ」

「は、はぁ…」

「だから、そんな逃げる気満々！って体勢とられてると追いかけたくなっちゃうんだよね」

「すみ…ません？」

この人は、周りが自分をどう思っているかだなんて、気にも止めないし些細な問題と思っているに違いない。そもそもそんな事すら考えないのだろう。何とか平常心を取り戻しつつ、未だ下がろうとしていた足を前に進めた。偉い、私。

「小エビちゃん、めっちゃ良い子じゃーん。そういう子、オレは好き」

「そうですか…」

勘弁願いたい。

「はい、じゃあ～これでオレと小エビちゃんは友達ね」

ギュッと手を握られ、上下に振られる。

言葉を飲み込んで理解したのは「じゃあね～」と彼が立ち去った後。

「…は？」

これがなんと、3週間前の話である。