Q20:気づいた想い ページ21
赤司side.
キャットウォークから降りて、俺は先輩に近づき、声をかける。
「お疲れ様です。如月先輩」
「!あ……お疲れ様。って、見てたの?」
先輩は俺に驚いたのか、体を小さく揺らすと目を見開いてそう言う。
「キャプテンや同学年と、あそこから。それより……先輩。足は大丈夫ですか?」
キャットウォークを指して呟くと、俺は本題をぶつけた。
すると、先輩の表情が変わる。
「……見てたのに、意地が悪いね。第4クォーター……ラスト2分で悪化しちゃった」
先輩はそう言って、足首のストレッチに入る。
その表情からは痛みや苦しさが滲んでいる気がした。
それを、今俺が口にするまで、隠していたということは先輩なりの意地なのか。
俺がジッと先輩を見ていると、こちらに顔を向けた先輩が困ったように笑いかけた。
「……まだ、正式ではないけど……自分とこのマネージャーが試合に出たのを見た感想は?」
「あ……なんというか、複雑ですね。でも……先輩の勇姿は、また見たい……そう思う試合でした」
素直に呟くと、先輩は少し肩を竦ませて、「そう?なら……女子は選手をやりながら、男女はマネージャーを続けようかな」と笑いながら言った。
それはおそらく、先輩が俺に初めて見せるとびきりの笑顔。
俺は先輩のと思われるカバンの上から、タオルを取ると先輩の頭にかける。
「……良いんですか。先輩が大変になりますよ?」
「良いも悪いも、本当は決めかねてたんだ。運動は好きだけど、サポートするのも好きで……でも、それができるのは、きっと中学まで。高校に入ればどっちかは必ず、諦めなきゃいけない……だからさ、私が欲張りでいられるのは今年と来年だけ」
先輩の言葉に目を見開く。
"欲張り"?
高校はそうも行かないと、割り切っているからか?
「……先輩の本音は、どちらなんですか」
気がつくと、俺はそう呟いていた。
先輩は驚いた表情で俺を見るが、顔を俯かせると「叶うなら……マネージャー……。男子の方に、好きな人がいて……それを身近な場所でサポートしていきたい……」と、先輩にしては弱ったような声で呟いた。
先輩はテーピングを剥がすと、包帯と湿布を手にする。
それを見て、俺は「俺がします」と湿布と包帯を取り上げた。
しばらくは無言だったが、先輩の「好きな人をサポート」という言葉が俺の頭を占めていた。
そして、そのとき……初めて気づいた。
自分のこの気持ちに。
俺ができるのは、先輩の気持ちをこちらに向けること。
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作者名:アマユリ | 作成日時:2021年11月20日 16時