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迎えてくれたマスク姿の女性は

いつだったかレトロな喫茶店で見かけたあの好みの目元の彼女だったんだ

「あッッ」

慌てて口を押さえると
彼女は不思議そうに目を大きくして

「こちらに座って下さいね」

と言った

「あ はい」

リラクゼーション式の椅子に座ったら彼女が左側に寄って来る

こんなに近いのかよって何故か緊張してきて両手を膝の上に乗せて背筋を伸ばした

「あの 手を出してもらわないと」

ああッそっか なにやってんのオレ

指をまじまじとみつめて軽く触ってくる仕草が仕事だとはわかっていても妙な気持ちになる

「すごい指長いんですね」

「よく言われます」

え 合ってる?誉められてんだよねコレって

俺のキョドり具合が可笑しいのか
下瞼が上がって彼女の目が三日月になった

きっとマスクの中で笑っているんだ
激しく恥ずかしいじゃん

「ファイリングしてキューティクルを整えてからバッフィングだけでいいですか?」

は?今の日本語なの?やばい全然わからん

無言の俺にまた三日月の目で見てくる

「初めてなんですか?にかさん」

「え 何で名前...」

一言も名乗っていないのに
もしかして俺の事知ってんのかな

え ほんと無理
これでSNSなんかで二階堂ネイルケアをする
女子力高嗣なんて のっちゃうんだろおお

もう帰りたくなってきた

「桜木さんがにかって呼んでました」

「ああ...」

なんだそっか

「結構 俳優さんとかもネイルケアしてるんですよ だから心配しなくても大丈夫です」

そう言って ファイリングってぇのを始めた
形とか長さを聞かれたけれどほんとわかんなくて

「お任せで」

それしか言えなくて


真剣な目で俺の爪を削ってくれる姿を
ただただ眺めていた

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作者名:8みつ | 作成日時:2020年6月20日 23時

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