「いつかの憧憬 2-2」 ページ15
「3日間。どうもお疲れさまでした」
「…はい」
この前連れてこられた部屋で、労いの言葉と共に紅茶が差し出される。
「ありがとうございます」
それに口を付けれるぐらいには、私は先輩に慣れてきていた。
彼とは違う。それがこの3日間働いてよくわかった。
彼はこんなに親切でも紳士でも詐欺師でも無かった。
「…美味しいです」
切にそう思う。
先輩と一緒に居るときでも味を感じられるようになっただけで大きな進歩だ。
「…そうですか」
対してアズール先輩は反比例するように、口数が減ってきていた。。
「どうかしました？」
何時しかの時とは逆に、私が先輩を顔を覗き込む。
「…」
何も言わず、逸らすことも無くじっと私の目を見つめてくる。
「…貴女って犬みたいですね」
「犬ですか」
呆れたように言われた単語を復唱する。
「えぇ、犬です。」
そう頷き、また何も言わなくなる。
「…じゃあ、お世話になりました」
どうしようもないな、とカップを置いて給仕服を机に置いたとき、腕を掴まれた。
「送っていきますので、勝手に帰らないでください」
苛ついた調子だが、かけてくれる言葉自体は優しい。
「(彼とは違うなぁ)」
お言葉に甘えます、と頭を下げると、何故だか不愉快そうなため息が返ってきた。
…
「貴女どうしてあんなに僕を避けようとしていたんですか」
夜も更けてきた道すがら。
私の先を歩くアズール先輩はふと思いだしたかのように、問いを投げた。
「あ、あー…」
正直に言えるわけもなく、言葉が淀む。
少し考えた後、どもりながらも返事をした。
「せ、先輩と居るとついつい気が緩んでしまいそうになるので…」
間違ってはいないはずだ。
実際、彼と似ているから何が問題かというと、ついつい気が緩んで甘えたくなる(その願いは元の世界でも叶わなかったわけだけど)からなのであって、先輩自身に何かあるわけでは無い。
「(甘えるというか泣きたくなる？)」
その腕にしがみついて、抱きしめて欲しい。
そして頭を撫でながら「早く戻ってきて」と言われたい。
気持ちの悪い妄想だと自分でも思う。そんな独りよがりを晒すわけにはいかない。
「わっ」
そんなどうでもいいことを考えながら歩いていると、いつの間にか立ち止まっていた先輩の背中にぶつかってしまう。
「…Aさん」
軽く後ろを向いて、私の名を呼んだ。
「貴女ご自身が何を言っているか分かっていますか？」
そうして動かず、ゆっくりと言葉を発してきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 215人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ていていて(プロフ) - 飛鳥さん» ２にての話数が足りなくなってしまったので、3の方でトレイ先輩夢載せさせて頂きます…！お手数ですが3の方にお飛びください…！（再度のリク有難うございます…！） (2020年4月24日 0時) (
レス) id: 07fa99b89e (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - またトレイ先輩のリクエストで大変恐縮なんですが、主人公が怒られちゃうお話もし可能でしたらお願いしたいです…。 (2020年4月17日 2時) (レス) id: e991a9fa95 (このIDを非表示/違反報告)
タコのトランプ(プロフ) - とっても素敵なお話ばかりで切なくなったり背筋が冷えたり楽しいです！よければジャミル先輩のを書いてください！お願いします。 (2020年4月16日 18時) (レス) id: 27b3bc46a1 (このIDを非表示/違反報告)
おかゆ - 本当に最高のお話でした..！！読んでいると、切ない気持ちになりました！素敵なお話をありがとうございました(≧∀≦) (2020年4月12日 9時) (レス) id: 2ef73a5082 (このIDを非表示/違反報告)
おかゆ - あと、リクエストお願いしてもいいでしょうか..？可能であれば、レオナさんとのお話をお願いしますm(_ _)m (2020年4月11日 18時) (レス) id: 80b818e3ce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ていていて | 作成日時：2020年4月3日 0時
