「いつかの憧憬 1-2」 ページ13
「Aさん」
席を立つ前に、肩を叩かれる。その皮の手袋とその声はとても最近聞いたものだ。
そして、出来れば二度と聞きたくなかったものだ。
「…アズール先輩」
一応先輩だから、と軽く頭を下げる。
ついでに言うなら顔もあまり見たくない。
「何かお悩みでもあるんですか？」
ニコニコ、と笑みを絶やさず私のノートを指さす。
「それ、破っていらしましたよね？なんとも酷い顔で」
どこから見ていたというのだろう。
監視されていたような気持になって、恥ずかしさと気味の悪さを感じた。
「お話、伺いましょうか？対価さえお支払い頂ければ…」
食い気味に顔を近づけられる。
先輩が口を開く度、頭の中で形の成していない彼の声が流れる。
目の前が彼でいっぱいになった時、気付くと私は先輩を突き飛ばしそうになっていた。
「っ」
済んでの所で何とか手を止め、引っ込める。
「…おや、どうかしました？」
そんな私の行動を知っての上で、先輩はくすくすと笑みを零していた。
「は、なれてください。」
息も絶え絶えに、目を瞑り訴えかける。
見ないようにしなければ、思いださないようにしなくてはと思えば思うほどに、
彼の面影が視界を掠めてくる。
「フフ、一体僕が何をしたと言うんでしょうか」
「そんな嫌そうな顔をされては、流石に傷ついてしまいますね」
恐る恐る目を開けると、大げさに悲しんだ様子の先輩が目に入る。
「あぁ…とてもとても傷付いてしまいました」
シクシク、と泣き声を上げて、彼は眼鏡を外して目を覆う。
同じ教室にいる人たちが全員こちらを見てきた。
「(泣きたいのはこっち…)」
どうして傷口を抉ってきた相手が被害者と成りえるのだ。
ふざけるな、と言いたいが、思うだけに留まり、結局は周りの圧に押され頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。だからその」
すると、泣いている割には嗚咽が混じらない凛とした声が返ってきた。
「あぁ、貴女が3日間モストロ・ラウンジで給仕をしてくれたら」
「きっとこの傷付いた僕の心も癒えるのでしょうね」
試すように目線を向けられては、選択肢は無い。
「や、りますから許して下さい」
私の返事を聞くと、犬を愛でるかの如く頭を撫でてきた。
「…！」
「では！本日授業終わりにモストロ・ラウンジで待っています」
カツカツ、と靴を鳴らして先輩は帰っていく。
睨みつけることもせず、頭の上に自分の手を乗せる。
嬉しい、と感じてしまったのだ。
「(…一度だって)」
彼が私の頭を撫でることは無かったから。
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ていていて(プロフ) - 飛鳥さん» ２にての話数が足りなくなってしまったので、3の方でトレイ先輩夢載せさせて頂きます…！お手数ですが3の方にお飛びください…！（再度のリク有難うございます…！） (2020年4月24日 0時) (
レス) id: 07fa99b89e (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - またトレイ先輩のリクエストで大変恐縮なんですが、主人公が怒られちゃうお話もし可能でしたらお願いしたいです…。 (2020年4月17日 2時) (レス) id: e991a9fa95 (このIDを非表示/違反報告)
タコのトランプ(プロフ) - とっても素敵なお話ばかりで切なくなったり背筋が冷えたり楽しいです！よければジャミル先輩のを書いてください！お願いします。 (2020年4月16日 18時) (レス) id: 27b3bc46a1 (このIDを非表示/違反報告)
おかゆ - 本当に最高のお話でした..！！読んでいると、切ない気持ちになりました！素敵なお話をありがとうございました(≧∀≦) (2020年4月12日 9時) (レス) id: 2ef73a5082 (このIDを非表示/違反報告)
おかゆ - あと、リクエストお願いしてもいいでしょうか..？可能であれば、レオナさんとのお話をお願いしますm(_ _)m (2020年4月11日 18時) (レス) id: 80b818e3ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ていていて | 作成日時：2020年4月3日 0時
