【文スト】中原中也の奮闘記録

余裕 ページ25

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彼の腕の中におさまって十数秒、未だ無言である


『な、中原君…？』

「一ミリでも動いたらぶっ殺す」


表情を伺おうと上を向くと、そんな物騒な台詞と共に、其の逞しい胸板に頭を押さえつけられた

――口は悪いのに、随分と優しい手だな


互いに沈黙の最中、凄く早い心臓の音だけが訊こえる

其れが中原君のか、私のか、或いは両方かは、判らない事にしておくとして


そろそろ、正座してる足が痺れてきたので離して頂きたいのだが…―――



「離れてやるって、如何いう事だよ」


なんと、この儘話を進めるらしい

下手な事を云って又怒りを再燃されては困るので、ここは私が我慢するしかなさそうだ



「一大決心って何だよ」



参ったなあ、口に出してるつもりじゃなかったのに、全部訊かれちゃってるよ



「手前、手ぶらでポートマフィアから逃げれると思ってンのか」



一言一言、云えば云う程小さくなっていく声、其の声がよく訊こえるのは、段々彼の頭が下がってきてるからで

しまいには私の肩に額をついた


そして故意か本意か、一番鼓膜によく響く耳元で



「―――俺から、逃げれるとでも思ってンのか」


と、そんな余裕無さげに云う台詞じゃないと思うんだけど、どうやら彼は本気のようで


ぐっと、頭と背中に回った腕に力が入った



――こりゃ白状するしかなさそうだな


と悟り、「中原君」と、呼びかけた


漸く其の腕から私を解放して、尚も至近距離で見つめてくる彼の表情は



『………本当に余裕無いんだね、中原君』

「手前の所為だ」


ふいと顔ごと目を逸らされる


『はいはい、ごめんね、ちゃんと話すから』



云うと、渋々といった様子で離れて、寝台横の椅子に腰掛けた


こんなに素直な中原君は、実に珍しい


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