【文スト】中原中也の奮闘記録

居たい ページ20

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―――いつから居た


其の質問に対する答えは、「初めから」だ

寝付き悪いって云ってたから、どうせ今日も寝れずに退屈してンだろと思い、グラス二つと葡萄酒を持って其奴の部屋に行った

そしたら丁度部屋を出た所で


持ってきた葡萄酒を置いて後を尾けた

行き先を押さえたら次失踪した時に探す当てが一つでも増えると思ったからだ


だが、Aが向かったのは意外にも本部ビルの近くで、ここで声を掛けようと思ったが、やめた、否、掛けられなかった


空を見上げて独り、自嘲するように微笑した其奴の頬に、涙が伝ったからだ


其の涙の理由は大体判る

前の組織、死んだ恋人、どちらも、Aの手元から俺が奪った


当然、泣いてる其奴に声なんて掛けられるわけもなく


手持ち無沙汰で情けなく立ち尽くす事しか出来なかった


俺の返答に、「そう」と相槌を打って下を向いたAは、数秒でパッと明るい顔を上げて



『ずっと上向いてたら目にゴミが降ってきたよ』


と、笑った

取り繕った様子の無い、誰が見ても普通の笑顔だ



其の笑顔が一番、俺の心に突き刺さる


お前の所為だ、お前が私の全てを奪ったんだと、大泣きし乍責められた方が余程マシだ


周りに悟らせない其の笑顔を作るのに、どれだけの精神力を要しているか、俺なんかじゃ想像もつかない

無理をするなって云ってやる事も出来ない


誰よりも一番此奴の状況を知っているのに、他の誰よりも此奴を慰めちゃいけないのも、俺だからだ



「……帰るか」

『だね、夜中は寒過ぎだよ』



―――如何すりゃいい


―――手前は俺に、如何してほしい



其れさえ答えてくれれば、其れがどんな願いでも訊いてやるのに

其れ以外に、俺がAの心の傷を軽くする方法は無いのに



「…旨い葡萄酒持ってきた」

『なんと！丁度退屈してたんだよ！流石だね！』



訊く事は疎か其の話に触れもしないで、此奴の笑顔に甘えていつまでも隣に居座る俺は


――――最低だ


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