良い川とは ページ3
翌日から仕事が始まった。『人喰い虎』の捜索だ。
「良い川だね。」
然し乍ら上手くはいかない。太宰さんが仕事を放棄して入水してしまった。これが毎度の事だと言うのだから一緒に仕事をしている探偵社の人からしたら良い迷惑だろう。分かる、気持ちは分かる。
「太宰さーん、居たら返事して下さーい」
棒読みで呼び掛けるも、返って来るのは静寂のみ。良い加減疲れて来た。
「じゅ、入水！？」
耳をすませていると、少し離れた所から驚いた声が聞こえて来た。
『入水』と言う単語からしてビンゴだろう。
声がした方向へ足を進めると、川の向かい岸に案の定太宰さんが居た。
国木田さんと合流をし、太宰さんに声を掛ける。
「おぉーい！！！こんな処に居ったか唐変木！」
無言で手を振ると、太宰さんも此方に気がついた様だ。
「おー 国木田くんにA、ご苦労様。」
「苦労は全てお前の所為だこの自’殺嗜癖！お前はどれだけ俺の計画を乱せば──」
国木田さんの言葉を遮る様に、太宰さんは側にいた少年に語りかけた。
「そうだ君、良い事を思いついた。彼は私の同僚なのだ、彼に奢って貰おう。」
「へ？」
「聞けよ！！！！」
テンポよく進んでいく会話に付いていけなくなりそうだ。
思わず頭を抱えかけた時、また少年に語り掛ける太宰さんの声が聞こえた。
「君 名前は？」
「中島……敦ですけど」
「付いて来給え敦くん。何が食べたい？」
「はぁ、あの…茶漬けが食べたいです。」
笑い出した太宰さん。
「餓死寸前の少年が茶漬けを所望か！良いよ、国木田くんに三十杯くらい奢らせよう！」
言っておくが、会話は此方まで聞こえている。苦笑いで国木田さんをちらりと見ると、額に青筋を浮かべ乍ら「俺の金で太っ腹に成るな太宰！！！」と叫んでいた。
「太宰…？」
「ああ 私の名だよ。太宰…太宰治だ。」
続く
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作者名：うさぎ子 | 作成日時：2019年2月3日 16時
