最強をダメにする最弱：１

最高に幸せな時間 ページ40

ひとつめのドーナツはクリームブリュレと決めていた。
温かい状態が美味しいからというのもそうだけど、何よりカスタードクリームで一気に甘さに浸って欲しかったから。

「〜〜〜！！うまし！！！！」

そしてそれは、どうやら見事に成功したらしい。

食べた瞬間に目を輝かせて、それから噛み締めるように目を閉じ、心底幸せそうにもぐもぐと咀嚼するカタクリ様。
それはあの日見た、私の一番好きで、一番見たかったお顔。

『〜っ！』

カタクリ様が噛み締めるのと同じように、私も幸福感に身を震わせる。
飛び跳ねたり足をばたつかせたり、とにかく溢れる感情を解放したかったけれど、膝の上のカタクリ様を邪魔しない為にも、ひたすら心の中で転がり倒す。

嬉しい！可愛い！！幸せ！！！！

(ああもう無理！)

『はああ可愛い…！！』

カタクリ様が齧った先からクリームがこぼれないようにしっかり持っていなければいけないのに、あまりの可愛さに腕に力が入らなくなりそうだ。勿論頑張って耐えるけれど。

照れて真っ赤になるのも可愛らしかったけれど、幸せそうに頬を上気させるカタクリ様は本当に本当に可愛らしい。
照れも何もかも吹き飛ぶくらい美味しいと思って頂けたのだとしたら、嬉しさも倍増だ。

そうこうしている内に、カタクリ様が口の中に入っていたものを飲み込んだ。

『どうぞ、まだまだありますからね！』
「あ〜〜〜ん」
『〜〜〜！えへへ、沢山召し上がって下さい！』

二口目にしてもうご自分から口を開けて下さるなんて。なんてなんてなんて可愛いの！！

胸がきゅうと締め付けられて苦しい。それから息を吐くと幸せが胸に広がるよう。
こんな風に召し上がって頂くのが全て私のドーナツで、私だけがこのお姿をこんなに近くで拝見しているなんて。

『幸せ…！生きてて良かったあ…！』
「うまし！うましドーナツ！う〜〜〜ん至福！！最高！！」

それも私の一方通行じゃないなんて！
「美味しい」も「幸せ」も、一度じゃない。何度も何度も繰り返してくれるのが嬉しくて幸せで、頬が痛くなるくらいに顔が緩みっぱなしになってしまう。

そのままカタクリ様は、勢いもテンションもそのままに3種類とも召し上がって下さった。途中で紅茶も飲みながら。
どれを食べても、同じものを食べても、毎回「うまし」と言ってくれて、本当にパティシエ冥利に尽きるというものだ。

(やっぱり好きだなあ)

お菓子というものが。お菓子を作ることが。
そう思わせてくれるのは、その笑顔。

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