もしも好きと言えたなら ページ3
春はいきなり探偵事務所に押しかけてきて、
「今日限りで、ミミ探偵事務所の助手、やめさせてもらうよ」
と言った。
いきなりのことで私はただただ呆然とするばかりだった。
理由を問うも詳しくは教えてもらえない。
残るよう説得を試みればできない、と否定される。
「俺だってもっとミミと事件を解決したい…、でも、だめなんだ。もう、だめなんだよ…！」
そう言った春の顔は、とても辛そうで。
なんで、そんなに辛そうなの。
そんなに辛いのなら、別れなんて言い出さなければいいのに。
私は、喜んで一緒にいるのに。
何と声をかければ最善なのか、わからない。
ただ一つ分かるのは、これが春との別れになるかもしれないということ。
そんなの、いやだ。
でも、現実は非情なもので。
「俺の命といっしょくらい大切なものなんだけどさ、ミミに持っててほしい」
春にそう言われ、ペンダントを手渡されたとたん、私の感情はとめどなく溢れ出す。
「ずるいよ…！ずっと一緒にいたかったのに。いつもそうやって春は一人で行動して…ッ！私を危険から遠ざけようとして…！ずっと一緒にいたかったのに…最後もそうやっていなくなっちゃうなんて、ズルだよ…！」
「ミミにはなんて言われても仕方ない、けど…ごめん
俺の決意は、変わらないんだ」
なんで謝るの
「もうたぶん会うこともないんだと思う」
なんでもう会えないの
「最後に約束して」
春…
最後なんて。
これでお別れなんて。
これを言いきったら、春は行ってしまうのだろう。
「なに」
「自分の正義は、絶対曲げないでね」
嫌だ。
いかないで。
春。
「いままで、ありがとう」
くるり、とこちらに背を向け、ゆっくりと歩きだす春。
「春、待って…！」
それに応えてくれる気配はない。
「ごめんね」
もしこれでお別れなら。
そうなってしまうとしたら。
最後に一つだけ、これだけでも伝えたい。
去り行く彼の背中に向けて、一言。
「好きだよ」
「…！」
彼はそれでも歩みを止めない。
無言で数歩進み、
ドアノブに春の手がかかった瞬間。
「俺も、好き。」
小さくつぶやかれたその言葉。
地獄耳の私には、はっきり聞こえていた。
それは春もわかっているだろう。
「じゃあ、」
パタン、と扉が閉まる。
だんだんと足音が遠ざかっていく。
「春＿＿＿＿、いつかまた」
私は彼のペンダントを握りしめながらそう言った。
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作者名：悠唯 | 作成日時：2020年12月6日 21時
