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「…っ」
翔「ん？」
言葉に詰まった私の顔を覗き込む、優しい瞳。
望んだものに手が届いたのは。
先生が私を、真っ直ぐ歩かせてくれたから。
手を伸ばした私に。
先生も同じだけ、手を差し伸べてくれたから。
？「 翔 」
きゅぅぅって鳴ってた胸が、威圧感な声に反応して、一瞬で凍りつく。
漆黒のフォーマルスーツと、誰をも寄せ付けないオーラを身に纏って、歩いて来る。
翔「…お父さん」
父「あぁ」
頷いたお父さんが、私に向かって「どうも」って短く声を掛けた。
父「ひさしぶりだね」
「っ、おひさしぶりです」
父「先週帰国して、翔から全て聞きました」
「…はい」
父「どんな手を使ったのか知らないが、約束は約束なのでもうなにも言いません」
「……」
父「まぁ末永く息子をよろしく頼みますよ」
どこか諦めたような、バカにしたような声でそう言って、ふんっと鼻を鳴らす。
父「こいつは子供の頃から負けず嫌いで頑固で。周りには猫被って大人しくしてるが…、根は相当腹黒くて、生意気な男でしょう？」
「え？」
翔「……」
余裕たっぷりに私たちを見下ろすと、ふって薄く笑って。
父「まぁ私の息子なんだから、当たり前だけどね」
「……」
父「周りからの評価は高いが、私からすればこいつはまだまだ甘ちゃんの半人前だ。せいぜい支えてやってください」
「…はい」
父「あぁ、だからって家を乗っ取るだなんだって話を実行するのはやめてくださいね。そんなの、うちの会社にはなんのメリットもないから」
「…っ」
父「それじゃあ私はこれで」
冷たく微笑んでから、ふいっと身を翻す。
誰にも頼らずに、たった1人で生きて来た、大きな背中。
「あのっ」
父「…ん？」
「っ、私はまだただの大学生で、なんの役にも立たない子供ですけど。翔さんの為なら家を乗っ取ってもいいっていう気持ちは、今でも変わりません」
父「……」
「私はそのくらい、翔さんが好きです」
その背中を見て、誰にも寄り掛からずに生きて来た先生が好きだから。
やっと届いたこの手を、私はもう、絶対に離さない。
「今の私にはまだなにも出来なくても。…私が、翔さんを支えます」
父「……」
「お父さんの会社を守っていく翔さんを、私が守ります」
2人が守って来たものを、一緒に守れる私に。
いつかきっと、なってみせます。
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作者名：あげは
| 作成日時：2016年7月6日 1時
