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翔「なんか飲む？」
賑やかなパーティ会場を並んで歩きながら、先生が私を見て。
「え、あ…」
翔「ノンアルコールのシャンパンあるはずだから、それでいい？」
「あ、はい」
翔「ん。取ってくるから待ってて」
優しく微笑んでから、カウンターへ歩いて行く。
…あの、先生。
今まで、紳士的で上流階級な先生は何度となく見て来たし、
私以外の女性に向けられるちょっと甘めな雰囲気も、かっこよくて羨ましいなって思ってたけど。
突然私に向けられた上に、お得意のどSへの切替えもなく。
ずっとずーーーっとジェントルスイッチがONのままなのはなんでなんでしょう。
このままだと私。
その甘さに、心臓がどろどろに溶かされそうで怖いです。
きゅんきゅんうるさい胸を鎮めようと、自分の活けた花の前で立ち止まる。
籠型のスタンドから零れるほどの、真っ白なライラックと、
そのふんわりと雲みたいな花の隙間に、真っ赤なまぁるい牡丹の花。
昨日の夜、今の私に出来る全てを込めて。
ただただ先生のことを想って、活けた花。
翔「イタリア国旗を意識してんの？」
いつの間にか私の背後に立ってた先生が、肩越しに花を見上げて呟く。
翔「白と赤と…葉の緑。イタリアの三色旗」
「…はい」
翔「ローマ店のオープンだから？」
「そうです」
持ってたグラスを1つ私に渡して、自分もシャンパングラスに口をつけてくいっと1口飲んで。
じーっと私の花を見上げてる。
翔「いいね」
「…え？」
翔「派手じゃないのに鮮やかで、瑞々しくて」
「……」
翔「綺麗だよ」
「…っ!?」
ふっと首を傾げて私を見下ろす、甘い微笑み。
甘い声と、背中と胸がぴったり触れる、甘い甘い距離。
…音がする。
どろどろ溶けていく音がします、先生。
もうこれ以上、私に糖分を与えないでくださいっ。
翔「翔べた？」
「え？」
翔「見上げるだけじゃなくて。今度はちゃんと翔べた？」
「あ…」
―― "やっぱりちゃんと手を伸ばしたいから。…だから、ここから先はためらわずに飛べるように。この名前にしました"
「…っ」
翔「届いただろ」
「え？」
見上げた私に、ふっと微笑んで。
翔「ちゃんと真っ直ぐ伸ばしたから、望んだもんに手が届いただろ？」
私の頭に、ぽんっと手が乗ったら。
「ね？」って、また甘い声がした。
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作者名：あげは
| 作成日時：2016年7月6日 1時
