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「ねぇ、Aは行きたいところないの?」

「ちょ、休憩しよ、ぶるっく」

「えぇー…わかった。じゃあ、あそこ入ろ」


そう言って近くにあったカフェに入る。初めて入るカフェなのに、どこか見覚えがある気がした。

まぁ、カフェなんて似たようなものだし、既視感があるのも仕方ない。


いつもデートとかで連れ回すのは、私の方だ。
でも、今日はぶるっくに散々色んな場所へ連れ回された。



「珍しいね」

「何が〜?」

「ぶるっくが私を連れ回すの。いつもは、私が連れ回すじゃん」

「ん〜、確かにそうかも」


頼んだ飲み物が来るのを待つ間、水を喉に通してそう話す。


「…楽しくなかった?」

「え!?」

思いもしなかった言葉を投げかけられ、声を上げてぶんぶんと首を横に振る。
はは、すごい勢い、と笑われた。

でも、それくらいに久しぶりのデートはとても楽しかったのだ。


「僕、Aのこと、忘れちゃうじゃん」

「…うん」


今くらいは、忘れておきたかった。自然と目線が下がる。




「多分だけど、僕、Aが思ってる以上にショック受けてるんだよね」

「…え、」

「だから、今日はたくさん遊びたくて〜」

突然の告白に驚いてぶるっくを見た。口は笑っているが、暗い青の瞳はゆらゆらと揺れている。


「当たり前でしょ?…Aの方が辛いなんて、わかってるけど、さ」



そのままぶるっくが泣いてしまいそうになるから、私はびっくりして慌てた。

なんで貴方が泣くの、泣きたいのはこっちの方だ、なんて思った、過去の私を馬鹿だなぁ、と思う。


ぶるっくだって、辛かったのだ。





「ごめん、ほんとに。…でも、」



「僕が、君のことを愛してるのは、絶対に変わらないから。信じて」


「明日も、忘れちゃうかもしれない。でも、絶対に思い出してみせるから。ちゃんと、Aのことを、愛してる、から」



ぶるっくの滅多に聞かない力強いまっすぐ言葉は、それが本心だということを示していた。



「…うん。わかった」

「その代わり、Aも、僕のこと、」

ぶるっくがそこまで言いかけて、頼んだものが運ばれてくる。ウェイターさんからカップを受け取って、ぶるっくの言いかけていた言葉を紡いだ。



「大丈夫。私もずっと、ぶるっくのことが、好きだから」



じゃないと、あんなに泣かないよ、と言うと、ぶるっくはホッとした顔をしてから、もう一度ごめん、と謝った。




きっと、誰のせいでもない。





限界に近かった私の心は、今日だけでかなり回復したような気がした。

11/26(金)→←▽



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作者名:空羽 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年5月23日 1時

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