天才音楽家と言われた少女は笑う［歌い手］

本音。8 ページ9

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奏とろくに喋れていないまま、あっという間に日本を離れる日になってしまった。

空港で、スーツケースの中身がちゃんと全部あることを確かめつつ、溜息を吐く。
…ライブの時も今も、何やってるんだろ。子供じゃないんだし、仲直りくらいぱぱっとやるべきなのに。


「A」

『お母さん。どうしたの？あ、忘れ物はしてな…』

「素直にならなきゃいけない時に、意地張ってると後悔するわよ」


思わず黙り込む。
…分かってる。こんなの意地の張り合いをしているだけ。

もうすぐ日本を離れる私には、意地を張り合う時間なんてないのに。
長く一緒にいすぎたせいで、二人の時間が永遠に続くものだと勘違いしていた。


『…ありがとう、お母さん。ちょっと電話してくる』

「時間内に戻ってくるのよ」


スーツケースを預けて人混みの少ない所に向かう。
電話帳から奏の電話番号を探し出し、心を落ち着かせてから発信をタップした。

呼出音を聞きながら、目を瞑る。
…出て、奏。


「…A」

『え…？そ、奏！？それに皆…どうしてここに？』


振り向くと、奏と歌い手の皆が笑顔で私を見ている。
…なんでここに？今日出発することも言ってなかったのに。

歌い手の皆は、何故かじーっと私のことを見てる…あ、この姿で会うのは初めてだ。


「女装してた時とも雰囲気が違うんだ…可愛い顔してるなーとは思ってたけど、まさか本当に女の子だったなんて」


万が一、零原Aを知ってる人がいてもバレないように、自分とは全然違うタイプの服を着たからかな…

見つめられすぎて恥ずかしくなり、思わず目を逸らした。


「…“Ray”、Twitter見た。活動を半年に一回にするんだろ？」

『はい…』


最低だよね。リスナーさんに対して、酷い態度…半年に一回しか歌ってみたを出さないなんて。

ぎゅっと目を瞑って、唇を噛む。

歌い手として本気で活動してる人には、音楽家としての活動の息抜き程度で歌い手をやる、という風に捉えられてもおかしくない。


「じゃ、Rayが海外に行ってからの初コラボは俺だな」

『…え』

「うわ、そらるさんずるいですよ！！僕です！！」

「んじゃ、間とって俺で」

「えぇ！？」


笑いながら言い合う皆。

…なんで？

なんでまだRayを必要としてくれるの？
自分勝手で、騙してばかりの私を…なんで待とうとしてくれるの？

呆然と立ち尽くしていると、真っ赤にした奏が、バッと手を挙げた。


「ぼ、僕が！」


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