三十話 ページ30
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「どうしても、相川真冬に会いたいんです。
住所、教えて下さい…!」
「………」
管理人さんに頭を下げて、懇願する。
…もう、かれこれ三週間くらいしているかもしれない。
あの呟きを見て、まふまふは音楽から離れたがっているんだと思った。
だけど、違った。
まふまふはまだ、音楽を嫌いになんかなっていない。
歌い手仲間や友人に声を掛けたが、誰もまふまふの行方を知らなかった。
…頼みの綱は、引っ越した先の住所だけ。
「…すみません、無茶を言っているのは分かっているんですけど…どうしても…」
「……はぁ」
溜息を吐かれて、ビクッと肩を揺らす。
…俺までここを追い出されたら、まふまふのせいだからな。
恐る恐る顔を上げると、想像していた表情とは違った。
どちらかと言うと、諦め、のような…
「三週間もお願いしてきたんだから、余程心配なのね、相川さんのこと。
…いいわよ、教える。普通は教えちゃいけないんだからね」
「あ…ありがとうございます!」
紙に住所を書いて貰って、改めて頭を下げる。
住所を確認すると、ここから一時間弱で行ける場所だった。
とりあえず、一番心配して、俺と一緒にまふまふを探してくれた天月に電話を掛ける。
「…あ、もしもし。
まふまふの住所を貰えた。明日の朝って暇?」
わざわざ朝にするのは、出かけられるのを防ぐため。
流石に帰ってくるのを家の前で待つ訳にはいかないから…
天月も予定がないようだったので、適当に時間を決めて電話を切る。
「…何から聞こう」
部屋に戻って、一人呟く。
気になることは沢山ある。
あの呟きについて、これからについて、まふまふの悩みについて、
そして…
「……“これ”のことも、ちゃんと聞かなきゃね」
そう言って、スマホの、YouTebeの画面の一部を指でなでた。
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時