二十九話 ページ29
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「おはよー」
『おはようございます』
今日も美味しそうな朝ご飯が並んでいる。
あれ、Aちゃんが部屋着を着ている、ということは…
「…今日って、土曜日?」
『?そうですよ?』
「…はぁ」
俺の隠していたことについて話そうと決意してから、もう一週間…
Aちゃんが、俺がまふまふだと知って、皆にバラすのでは?と心配している訳ではない。
ただ、俺を“相川真冬”として接してくれる人がいなくなってしまうんじゃないかって…不安になる。
ぼんやりとそんなことを考えていると、突如インターホンの音が鳴った。
…こんな朝早くに、なんだろう?
『はーい?』
《…た、宅急便です》
『ちょっと待っていて下さい…
私が出ますね』
「あー…うん、お願い」
自分の服を見て、パジャマだったことを思い出す。
…着替えてこよう。
欠伸をしながらクローゼットに向かう。
今日話さなきゃ、いつまでも言えないまま、進めないままだ。
…流石にもうこれ以上、そらるさん達の連絡を無視出来ない。
それに、Aちゃんがマイクに向かって楽しそうに歌っているのを、羨ましく思っているのも事実だ。
……だけど。
「…一人で考えていても、結論なんて出ないよね。
とりあえず、Aちゃんに話さないとなぁ…」
色々な気持ちが絡み合って、結局何もせずに一週間過ぎてしまっている。
…これ、死ぬまで続いたらどうしよう。
縁起でもないことを考えて、また溜息を吐く。
リビングに戻ったけれど、Aちゃんの姿がない。
あ、印鑑とか必要だったのかな。
……そういえば、さっきの配達員の人の声、聞き覚えのある声…な気がする。
寝惚けていたからしっかり聞いてないけど。
そんなことをぼんやりと考えながら耳を澄ますと、ドアの向こうから口論みたいなものが聞こえるような…
『…痛っ!』
「!」
叫び声が聞こえて、慌ててドアを開ける。
二人いる配達員の内の片方が、Aちゃんの腕を力強く掴んでいる。
「Aちゃん!大丈夫!?」
『真冬さん…っ』
掴んでいる腕を無理矢理外し、俺の背中に隠す。
Aちゃんの腕を掴んでいた人を睨み付ける。
その人は…
「そ、らるさん…」
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時