三十五話 ページ35
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『なんで、真冬さんはまふまふさんを辞めなければならないのですか?
やりたいなら、やればいい。それじゃ駄目なんですか?』
反応に困っていると、俺のことを見つめて、少し目を潤ませた。
『…私は、何も分からないです。
真冬さんがまふまふさんってことも、そんな悩みを抱えていたことも、今知りました。
だから、見当違いなことを言っているのかもしれませんが…
真冬さんは、曲を作っている時が、歌っている時が、一番キラキラしていて楽しそうです。
世間を気にしなければいけない。それは分かっています。
だけど、リスナーの方は…真冬さんが、苦しみながら歌っている曲を聴きたいとは思わない筈です。
世間を気にするよりも、楽しそうに歌って、皆に歌声を届けることが一番大切…じゃ、ないんですか?』
「…うん、そうだね。
そんな簡単なことなんだよ。なのに俺は出来なかった」
俺がそう言うと、スカートの裾から手を離し、俺の手を握った。
優しく、壊れ物を扱うように。
『何も知らないので、安っぽい綺麗事しか言えません。
でも、信じて下さい。
私や、真冬さんの周りの方は、何があろうと真冬さんの味方です。
だから…一人で、抱え込まないで。周りに頼ってください。
周りを傷付けたくない気持ちは分かります。
だけど…周りだって、真冬さんに傷付いて欲しくないんです』
ぎゅっと手に力が込められる。
…なんで、Aちゃんが泣いてるの。
『っ…真冬さんは、私の居場所になってくれるんでしょう?
私だって、必要ないかもしれないけど…真冬さんの、居場所になりたい。
だから…関係ないなんて、言わないで』
「…っ、ごめん」
堰を切ったように、Aちゃんの目から涙が溢れ出す。
涙を拭おうとすると、手で止められた。
ぐい、と乱暴に涙を拭って、Aちゃんは俺を見た。
『…もう、現実逃避はやめましょう?
このままじゃ、駄目です。
居心地のいいこの部屋から出ないと、私達は一生変われない。
家族とちゃんと向き合うから…真冬さんも、二人と、“まふまふ”と向き合って下さい…』
「…まふまふ」
振り向くと、二人も目を赤くしている。
…向き合う?どうやって?
何も出来ず、ただぽろぽろと涙を零していると、そらるさんが掠れた声で言った。
「…難しいことじゃない。たった、これだけで良かったんだ」
「___歌うことが、好きか?」
そんなの、決まっている。
俺は_____
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時