私も生きてたのに

伍 ページ5

髪に指を通せば簡単に解かせて、柔らかく細い髪。Aは起きてしまった。



「すまない。起こしたか。」


「だっ、大丈夫です。」



先程まで肌を見せても恥ずかしがらなかった割りに、俺に甘えると恥ずかしがるA。
その境界線があまり分からない。



「A、お前の兄は炭治郎と言うか。」


「あ…はい。何故それを…」


不思議そうに俺を見つめるとろんとした目。


「一度会っただけだ。鴉でお前の安否を兄に伝えられるが、どうする。」



「…伝えないでください。」


下を向くA。今までに見せなかった暗い雰囲気に、理由を聞く。
Aが顔を上げると泣きそうで目が潤んでいた。



「ずっと、お兄ちゃんに避けられていたんです。」


「…何をしたんだ。」


「何も、してないです。私から関われば優しいんですけど、お兄ちゃんからは、関わってくれなくて。」



もしも、家に帰ってきた時、私が生きていると分かっていて置いて行ったとしたら、

続けて発される言葉を俺は手で塞ぐ。


「そんな事は言ってはいけない。」



本当になってしまうかもしれないから。明確に言葉に表してはいけない。

言わせてくれない俺にAはついに涙を溢して、泣く。
そうだ、泣け。泣くのなら何も失わない。辛さだけを流してくれる。



「俺から見た竈門炭治郎は、そんなことをしない。」


Aを置いて行ったのも、あいつがまだ未熟だったからだ。
俺は微かな呼吸を見つけてAを助けた。常人には感じ取れないほど、小さい呼吸を。

Aの頭を撫でて、あやすようにするが一度頭に乗せた暗い考えは止まらないようで、



「本当です、か、私、弱くて、病気で、薬も要る、邪魔な、だけ、でっ」


「誰もそんなこと思っていない。」



せっかく着せた浴衣が崩れていく。
Aの胸に落ちていく涙。

きっと、Aは自分が嫌だったから、面と向かってして欲しいことを言えずに、愛情が不足していた。
だから、接吻を求める鬼になってしまったのだろうか。

陸→←肆

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