私も生きてたのに

参拾伍 ページ35

話はそこまでに、Aにお萩を食べる様に勧めた。Aは話題を変えて俺に聞いてきた。



「不死川さんって、弟さんがいらっしゃったんですね」


「あァﾞ？……そうだな」



才能が無い癖に反対を押しきって鬼殺隊に入った愚弟だけどな。
Aは風が吹くいて揺れる桜の様な、決して派手では無いおしとやかな微笑みで俺に告げる。



「不死川さんも…仲直り、してくださいね」


「あ？喧嘩何てしてねーよ」



「そうですか…
…では…仲が良い所をいつか、私に見せてほしいです」



見てみたいです、と遠回しに仲良くしろと言われる。
確かに、喧嘩はしてないけど、仲直りはしないといけないのかもしれない。
見透かされた緑の目に見られない為に手で目を覆い、口にお萩を詰めた。



「ふっ、んん！んー」


「てっ、指噛むんじゃねェよ」



指にAの唾液と餅の杏が付く。
目を隠されているAが面白かったから、そのままにして、お萩を飲み込んだ口に指を突っ込んだ。



「不死、川…さっ」


「唾、垂れてんぞ」



舌がびくびく動くのを見ながらなぞり、溢れ出る唾液を指で掬った。
口の中から指を出して唇をなぞる。



「っふ、んに」



唾をかき混ぜる度に粘着質な音が響いて、目を隠されて、より感じるAの耳が音の毒に浸される。
Aの息も荒くなり、俺もかなり興奮していた。


「(やべえ腰にクる)」



俺の方が抑えが効かなくなりそうだったのでそこまでに、お絞りで口周りを拭いてやった。
目を隠していた手も離すと頬が紅を塗った様に真っ赤になっていた。



「すまねェ、調子乗ったわ」



羞恥で俺を直視出来ないのか、Aは少し視線をずらしていた。
頭をぽんぽん、と玄弥にするみたいに撫でてやるとようやくAは俺の目を見た。



「弟さんと仲良くしてるの、見せてくださいね」



勘定を済ませ、冨岡の屋敷に送ってやっているとAはそう言った。
分からない未来だったから、「いつかな」と曖昧に返した。

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