私も生きてたのに

肆拾 ページ40

「っは、あっ」


「A、俺が分かるか！？」



何とか間合いに入り、水晶が脇腹に刺さるのも構わずにAの両頬を包んだ。
ぐっ、と目を合わせ認識させようとするが、Aは俺の腹を蹴り戦闘に引き戻した。

今までに見せなかった血気術で再び攻撃してくるが、Aの目には涙が溜まっていた。



「A、話せ！何があったのか！そして、俺が絶対に守るから！」



氷柱の様に降ってくる水晶。
泣きながら戦うAの姿は痛々しくて、見ているこっちが苦しくなりそうだった。
今度こそ、守り切るんだ。



「Aっ！！」



地面を強く踏ん張り、Aの至近距離まで詰める。
一か八か、Aのその唇を自分の口で包んだ。
木々の間に不自然に生み出された水晶はぱりんと割れ、幻想的に宵闇に散っていった。


「A…大丈夫、か？」



薄く俺を見つめる翡翠の瞳。
良かった、と安堵したのは一瞬。俺は覚えの無い疲労感に襲われその場に倒れた。



「っな…！？」



Aは俺と反対に、ぴんぴんして立ち上がった。
それを見て、生気を奪われたと理解するのは早かった。
牙が生えて俺が最後に見たAよりもずっと鬼に近づいたから、進化を遂げた血気術。

紛れも無い、性の鬼の術であった。



「…お兄ちゃん、ごめん…」



自我はありながらも、何かに怯えてやらされている様だった。
此処から遠ざかろうとしたから、残った気力で足払いをして転んだ所を押さえつけた。



「Aっ…、話をしろ。誰にやらされてるんだ、大丈夫だ…俺が、助ける、から」



全体重をAに掛けて動けなくして、話を持ちかける。
下ろされているAの黒髪は艶が無く、酷い扱いをされていたのか容易に伝わる。



「…私……」


「そこまでだよ、Aちゃん」



気配無く現れた、鬼。
ひしひしと空気から伝わるその強さ。目に書かれた上弦の文字に恥じない様な強さなのだろう。



「うーん、やっぱり自我があるといけないのかなあ。予想じゃもうちょっといけると思ってたんだけど。」


「ごめ…んなさい！」



冠を被った鬼は容易く俺をAから引き離し、抱え上げた。

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